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新たな「階級闘争」が始まったのか?:読書録「ブロークン・ブリテンに聞け」

・ブロークン・ブリテンに聞け
著者:ブレイディみかこ
出版:講談社


新自由主義の進展によって中間層が没落し、格差と分断が拡大。
その上位層と下位層(労働者層でもある)の新たな「階級闘争」が始まりつつある。

…イギリスで20年以上生活し、イギリスとEUを見てきたブレイディさんの「見立て」はそんなところなのかもしれません。
コロナ禍がその分断をより鮮明にしている中、各国経済が一気に悪化し、そこから何が生まれてくるのか。


2018年から20年にかけて「群像」に連載されたエッセイを一冊にまとめたもの。
なんですが、それが、<Brexitから、反緊縮政策運動、保守・労働党のシーソーゲームの果てに「コロナ禍」>までをカバーするあたり、「激動の時期」の報告書みたいな感じにもなっちゃてるのが面白いです。(面白がれるような事態じゃないんですけど)


個人的には「そろそろ左派は<経済>を語ろう」を読んで、「その中で持ち上げられてたジェレミー・コービンはなんで19年の総選挙で大負けしたんだっけ?」というのが気になって手に取りました。
ただそれについてはあまり突っ込まれてはないかなぁ。

・EU離脱を支持する人が多い労働者の期待を背負っていたのに、総選挙では明確なスタンスを打ち出さなかった(再国民投票を主張した)
・打ち出した反緊縮政策が「大き過ぎ」て、保守党(ジョンソン首相)の打ち出した「小ぶりの反緊縮政策」に比べて現実味がないと見られてしまった。

…あたりでしょうか。ブレイディさんの整理だと。
(Wikiあたりだと、コービンの個人的資質も問題視されたようですが。そこらへん、「そろそろ左派は〜」でも触れられていました)


「反緊縮政策」については、コロナ禍で経済の先行きが厳しくなり、並行して分断と格差が拡大する中で、各国ともにそちらに舵を切らざるを得ない…って状況にもあります。
その中で、どの程度/どの方向に財政を投入して行くのかってのが、今後の世界経済の焦点になるのではないか、と。
そういう意味じゃ、「コービニズム」にも登場の余地はあるかも。
まだまだコロナ対策が on the way ではありますが(ただいま「ワクチン戦争」勃発中)、注視すべきでしょう。
日本にとっても変な緊縮政策で「失われた◯◯年、ふたたび」ってわけにはいきませんからね。


本書はそういう政治経済面よりも、社会文化面に焦点が当たった内容になっています。
その中で再三再四、言及されるのが、
「リベラルの現実離れ」。
ブレイディさん自身がかなりなリベラル(っつうか、アナーキストに近いw)なだけに、苛立ちや悔しさがそこここに顔を出しています。
まあ「問題はリベラルにある」ってのは、トランプ旋風をを通して浮き彫りになって、それは日本にも通じる…って捉えられるようになったのが、本書の連載期間にも重なってますからね。
割とブレイディさんは早い段階からそこを突いてた人でもあるんじゃないでしょうか。


緊縮財政が、如何に社会の基盤を破損するか?


今回のコロナ禍での「イギリスの失敗」の前提には、新自由主義政策の元に進められた社会資本の毀損(特にNHS(国民健康サービス))が大きく影響してると考えられます。
だからこそ、経済状況が厳しくなっている時期に「反緊縮政策」は社会の基盤そのものを破壊してしまう…というのは「証明されている」ことでもあるわけです。


「ブロークン・ブリテンに聞け」


聞くべきことはたくさんあると思いますよ。


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