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なんだかモヤモヤが残っちゃいました:読書録「両手にトカレフ」

・両手にトカレフ
著者:ブレイディみかこ ナレーター:高山ゆきの
出版:ポプラ社(audible版)

ブレイディーみかこさんの初の小説。
「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」が好きなので、出版されてすぐにリアル本で購入したのですが、今まで手が出せず…。
ブレイディさんのインタビューをどっかで見かけて…てのもあります。

<きっかけは、息子の一言でした。『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、息子の通う英国の元底辺中学校の話なんですが、当の息子が読んだら、「これは幸せな少年の話だよね」と言われてしまって……。あれは、荒れた学校と言われた中学がクラブ活動でダンスや音楽や演劇を思いきりさせたら子どもたちの素行も成績もよくなった、という話がメインなんですが、「(貧しさや家庭の事情から)クラブ活動すらできない子もいるよね。そこが描かれていないから、そういう意味ではウソだよね」って。>


え?
あれがハッピーで、こっちはもっとシリアスな話なの?


そのまま積読になってたんですが、audible になったのを知って、こちらでチャレンジしてみようかな、と思い直して、DLしました。
手を止めたくなるような作品でもaudibleだと先に進めることができるかなぁ、と。


団地に住むミアは、依存症の母と弟と生活している。
母の面倒を見つつ、弟の面倒も見るヤングケアラーの彼女の生活は底辺ギリギリで踏みとどまっている状況。
ある日、彼女は図書館で老人から「金子文子」の自伝を譲り受ける。
大正時代に無戸籍者として、ミアと同じように母親に振り回される生活を送る幼い文子の人生に、ミアは自分を重ねていく。
母親がソーシャルの助けを借りるようになり、ふとしたキッカケで自分が描いたリリックが同級生の少年に評価され、ミアの生活に少し灯りが見えたような気がしたとき、母親が再びアルコールとドラッグに溺れてしまう…




表紙を見て、
「ああ、女の子同士で過酷な人生に立ち向かっていく話なんだな」
と早合点しちゃたんですが、片方は「金子文子」なんですね。
よく見たら着物着てますわ。
大逆事件で獄中死した彼女のことは、ブレイディさんは「女たちのテロル」でも取り上げていました。
その彼女の少女時代の話を自伝から取り上げて、主人公のミアを重ね合わせつつ、自分が選ぶことが出来ない「親」や「親戚」に振り回され、自分自身を磨滅させていく姿が描かれます。
文子とミアで「2倍」ですからねぇ。
いやぁ、ちょっとシンドい。



ミアの方は、ラップと出会い、自己表現の手段を手に入れ、ギリギリのところから転落しそうになりつつも、希望の見えるラストになっています。
でも「金子文子」の方は冤罪で獄中死だからなぁ…。
小説としては希望を持ってきながらも、それはフィクションとしての収まりであって、リアルにはそんな甘くはない。
…ブレイディさんはそう言いたかったのかな?
ここんとこはちょっと漠とした感じを個人的には受けました。
いや、話としてはこういうオチであって良かったんですけど。



ラスト、ミアは周りの善意の人たちに助けられます。
仕事としてもボランティアとしても格差社会の低層に関わってきたブレイディさんの姿がそこに重なります。
と、同時に作中では、そういった善意の人々の間に潜む<捕食者>の存在にも言及しています。
それもまた、ブレイディさんが見てきた「事実」の一側面なのでしょう。
キレイ事だけでは済まされない世界が残念ながらあるのだ、と。



この格差と貧困。
現代日本ではどうなんだろう?
ここまで破滅的な状況が蔓延してはいないような気はする。
でもそれは単に「見えてない」だけかもしれない。
ミアの実情も周りの人にはほとんど知られていなかったのだから。
分からないけど、「もしかしたら」という懸念を感じることはあります。
確信は持てないながらも…。



ミアは<言葉>に助けられます。(知識や癒し・共感を得るための「読書」や、自分の感情を表現する「リリック」で)
「本をたくさん読んで、この底辺から出ていく」
…でも本当に「読書」がその役に立つのかどうか。
もう一つ僕が引っ掛かったのはソコかな。
それって、「できる人は上に行く/できない人は取り残されても仕方ない」って<能力主義>に重ならない?
「個人としてのサバイバルとしてはそんなこと言ってられない(能力主義だろうがなんだろうが、使えるものは使うべき)」
とも思ったりもするけど。
本書で言えば、
「ミアの母親を救い出すにはどうしたらいいんだろう?」
…答えが思いつかない。




#読書感想文
#両手にトカレフ
#ブレイディみかこ
#audible





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