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まあ欧米(特にアメリカ)の状況に比べりゃ、まだ日本はマシとも言えますが、徐々に…って気配もあるしなぁ:読書録「世界はなぜ地獄になるのか」

・世界はなぜ地獄になるのか
著者:橘玲
出版:小学館新書

リベラル化する社会を論じる、「上級国民/下級国民」「無理ゲー社会」に続く3作目。
論点が整理されてきたのか、いろいろな事案が積み重なって評価が定まってきたのか、3作の中では一番整理して論じられてる印象がありました。
まあ、読む側(僕)の方がこう言う方向性の論に慣れてきてるってのもあるかもしれません。


<光が強ければ強いほど、影もまた濃くなる。社会がますますリベラルになるのはよいことだが、これによって全ての問題が解決するわけではない。差別的な制度を廃止し、人権を保障し、多くの不幸や理不尽な出来事をなくすことができるかもしれないが、それによって新たな問題を生み出してもいる。>


これが橘さんの基本的認識で、その「新たな問題」を大きく以下の四点にまとめています。


(1)リベラル化によって格差が拡大する
(2)リベラル化によって社会がより複雑になる
(3)リベラル化によってわたしたちは孤独になる
(4)リベラル化によって、「自分らしさ(アイデンティティ)」が衝突する


これは前2作にも通じる論点でしょうが、それを踏まえて本書では「キャンセルカルチャー」を中心に、いろんな事例を挙げながら、その根本にある理論や考え方について解説してくれています。
章立ては以下。


part1 小山田圭吾炎上事件
part2 ポリコレと言葉づかい
part3 会田誠キャンセル騒動
part4 評判格差社会のステイタムゲーム
part5 社会正義の奇妙な理論
part6 「大衆の狂気」を生き延びる



よく整理されていて、自分の考えを整理し直すのに助かりました。
JKローリング騒動なんかにある「トランスジェンダー問題」なんかは、僕自身の誤解もあることに気づきましたし、その複雑さを再認識させられました。
(その上で作者の「指摘」にも納得感がありました)
小山田圭吾事件についても、少し時間をおいた整理としては妥当じゃないかと思います。

まあ、なんでしょうね。
「リベラルの一部(左翼)は先鋭化しすぎている」
ってことかな、一言で言えば。
「そこまで行かないホドホドのところでトドメとこうよ」
とサンデルやフクヤマは言ってるけど、なかなかそうもいかず…みたいな感じ?w


<社会がよりゆたかで、より平和で、よりリベラルになれば、わたしたちの生活レベルは全体として向上するが、それがさまざまなやっかいな問題を引き起こすことは、もちろん多くの知識人が気づいている。問題は、「だったらどうすればいいのか」の解がないことだ。>


と書く作者は、「右翼」的な立場には立っておらず、穏当な意味では「リベラル」なんでしょうね。(「保守」よりは「リベラル」なスタンスだと思います。結構、「保守」「右翼」を揶揄するコメントありますし。あくまでも日本的「保守」に対してですけど)
その立場からの橘さんのアドバイス。


「天国はすでにここにある」

<近代の成立とともに、自然を操作するテクノロジー(科学技術)を手にしたわたしたちは、人類史学的には想像を絶するほどのゆたかさと快適さを実現した。しかしそのユートピア(自分らしく生きられるリベラルな社会)から、キャンセルカルチャーのディストピアが生まれた。
天国(ユートピア)と地獄(ディストピア)が一体のものであるなら、この「ユーディストピア」から抜け出す方途があるはずがない。できるのはただ、この世界の仕組みを正しく理解し、うまく適用することだけだろう。>


個人的にはもうちょっと「理想」の力を信じたい。
信じたいけど、僕個人の対策としては、
「触らぬ神に祟りなし」
になっちゃうんだよな〜。
まさに
「この世界の仕組みを正しく理解し、うまく適用する」
ために。
それでいいんかいな…と思う気持ちもなきにしもあらずなんですが、とにかく抑圧的で一方的な言説には気分が悪くなっちゃうんですよね。(それは左派にも右派にもあります)
もうちょい穏当なあり方ってできないんでしょうかね…。


#読書感想文
#世界はなぜ地獄になるのか
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