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ちゃらけた夏の夜

この記事は、世界各国の物書きによるリレーエッセイ企画「日本にいないエッセイストクラブ」への寄稿です。第9回目のテーマは「夜」。2人目はイタリア在住・すずきけいがお届けします。文末に前回走者の紹介と、次回以降のお知らせがあります。

過去のラインナップは随時まとめてあるマガジンをご覧ください!


イタリアの夜は遅い。

夜が始まるのも遅ければ、ふけるのも遅い。

イタリアはヨーロッパの中では南に位置する国だけど、実のところ緯度はかなり高い。ミラノやヴェネツィアの緯度は日本最北端の稚内とほぼ同じ。イタリアのだいたい真ん中にあるローマだって、函館と同じくらいの緯度にある。

緯度が高いと日没が遅い。日本は夏でも7時くらいにはうっすら暗くなり始めるイメージがあるが、イタリアでは7時なんて昼とあまり変わらない。少し涼しくなるけどまだまだ明るいし、太陽はまだ空のけっこう高い場所をうろうろしている。

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8:30でもこの明るさ

ちょっと調べてみたら、今年の夏至のミラノの日没時間は9時16分だったらしい。これは正確には緯度だけでなくサマータイムの影響も大きいのだけど、ともかく夜の9時になってもまだ太陽が沈まないというのは、日本で生まれ育った自分にとっては結構なインパクトがあることだ。

日没が遅いから、夜の時間が始まるのも遅い。

夏になるとレストランは路上にテラス席を作るので、たいていの人はそこでごはんを食べる。このテラス席はガラスの囲いや植物で覆われた「ちゃんとした」ものから、ただ歩道にテーブルと椅子を出しただけのものまでさまざまだけど、とにかく夏になると、レストランのある通りは10時になっても11時になっても人で埋め尽くされる。人が集まるのがそもそも遅いし、みんな喋りながらのんびり食べるので、いつまで経っても終わらないのだ。

ごはんを食べに行くにしても1杯飲みに行くにしても、太陽が煌々と照っているとあまり気分が盛り上がらないのかもしれない。そもそも太陽の出ている時間は暑いから、日没に合わせて生活時間を変えるのは理にかなっている気もする。

賑やかで、人がごはんを楽しそうに食べる姿。通行人からするとちょっと通りにくくはなるけど、夏祭りのような少しちゃらけた雰囲気で、見ているだけでも楽しい。イタリアの夏の風景だ。

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「片付けたらさ、みんなでジェラートでも食べに行かない?」

ある日の夕食後、妻がこんなことを言い出した。うちは小さな子どもがいるくせに夕食が遅いので、食べ終わる頃にはゆうに9時をまわる。個人的にはそのままシャワーを浴びて、ソファーでビールでも飲んでいたい時間だ。

でもイタリアでは、この夕食後にジェラートを食べながら街をぶらぶら歩くというのは夏の定番の楽しみ方のようで、遅い時間になっても意外なほど人の姿は多い。外に出てみると、散歩中の人がジェラート屋の前で行列を作っているのをよく見かける。

妻はあまりジェラートが好きではないらしいが、夜の街を見ながらぶらぶら散歩するのは好きらしい。だから最初は誘っておきながらジェラート屋の前で「やっぱりいらない」という妻に大いに戸惑ったが、まあそういうこともある。(というのが最近ようやくわかってきた)

ジェラートを買って食べ歩いても、まだまだ空は明るい。いつになっても全然ふけない空を眺めながら、少しちゃらけた感じの夜の街を散策していると、イタリアの夏が来たなという感じがするのだ。

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前回走者、ベルリン酒場探検隊の久保田由希さんの記事はこちら。

酒場は夜の場所、と言いながら24時間営業の酒場があるあたり、なんともベルリンらしい光景です。イタリアにも明け方まで(こっそり)営業しているパブはあるけど、そんな場所にもめっきり行かなくなったな……と懐かしくなりました。


そして、次回のバトンを渡すのはネルソン水嶋さん。前回の記事はこちら。

沖永良部島にマツキヨあるんだ!(←失礼)って驚きはともかく、チェーン店の味って妙に恋しくなるときありますよね。似たものは作れても、ドンピシャで再現するのは至難の業。僕は今、吉野家の牛丼に猛烈に七味をかけて食べたい。

さて、次回飛び出すのはベトナムの夜か、それとも沖永良部島の夜か。どうぞお楽しみに!

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