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活気づく「江古田映画祭」の広がり  ~市民企画で新しい映像文化拠点づくりに〜                <市民メディアの現場から Vol.6>                  B-maga 2024 3月号

きっかけは
東日本大震災と原発事故

 「3・11福島を忘れない」をテーマに東
京・練馬区の江古田の街で2013年から
開かれている「江古田映画祭」が今年も
2月24日から始まった。3月11日までの約2
週間、武蔵大学と近くのギャラリー古藤
(ふるとう)を会場に、映画の上映とともに
映画監督らのトークイベントなどが連日繰
り広げられている。
 東日本大震災の被災と東京電力福
島第一原発の事故の問題や課題など、
「福島」を考えようと始まった映画祭だが、
回を重ねるごとに上映作品の幅も広がり、
市民による文化拠点づくりとして定着し
てきた。商業映画館では上映機会の少
ない社会的テーマの映画を、江古田地
区で連続的に上映することで地域の活
性化につなげているのが特徴だ。
 第13回の今回、初日の上映は『福田
村事件』(森達也監督)で、関東大震災
から100年を迎えた昨年の話題作でもあ
り、会場の武蔵大学シアター教室は200
人を超える参加者でほぼ満席。
 オープニングイベントでは、昨年第12回
の受賞者の発表と受賞者からのメッセー
ジが披露された。昨年のグランプリは『原
発をとめた裁判長 そして原発をとめる農
家たち』で、小原浩靖監督からのメッセー
ジが読み上げられた。観客賞は谷津賢
二監督の『 荒野に希望の灯をともす 』
『医師 中村哲の仕事・働くということ』『ア
フガニスタン・用水路が運ぶ恵みと平和』
の3作品、特別賞は宮城県石巻市出身
の佐藤そのみ監督が、市立大川小学校
6年だった妹を津波で亡くした自身の経
験を基に製作したドキュメンタリー『春をか
さねて』『あなたの瞳に話せたら』が選ば
れた。江古田にある日大芸術学部で映
像制作を学んだ佐藤さんのメッセージに
は地元の「江古田映画祭が評価してく
れた」喜びが込められていて、参加者も
一体になって受賞を祝い盛り上がった。

監督らとフラットに
意見交換

 『 福田村事件 』上映後は、脚本の佐
伯俊道、荒井晴彦、井上淳一の3氏が
登壇してのトークが、映画祭実行委員長
の永田浩三武蔵大教授の司会で進め
られ、参加者と意見交換した。
 2日目からは「ギャラリー古藤」を会場に、
地域の市民が中心の実行委員会が準
備した作品が次々に上映されたが、ほぼ
毎日、監督などを招いてのトークとセットで、
観る側が制作側ともフラットに感想などを
語り合える場にしている。『飯舘村 べこ
やの母ちゃん─それぞれの選択』(古居
みずえ監督)の上映から始まり、『「生き
る」大川小学校津波裁判を闘った人た
ち』(寺田和弘監督)やアニメ『ふながだ
の海』(いくまさ鉄平監督)、米アリゾナ州
での核実験後の地元民の被ばくを追った
『サイレントフォールアウト』(伊東英朗監
督)、相馬高校放送局制作の『 福島の
高校生が処理水問題を考える』などの作
品が次々に上映された。
 3月2日には土井敏邦監督の『パレスチ
ナからフクシマへ』と『ガザ〜オスロ合意
から30年の歩み』(初上映)の上映と監
督の講演が武蔵大であったほか、11日に
は俳優中村敦夫さんの朗読劇「線量計
が鳴る」を映画にした作品を上映、中村
さんとプロデューサー宮崎信也さんのト対
話イベントも。
 これだけの企画は、実行委員会にボラ
ンティアで参加した30人近い人たちの創
意で実現されている。ギャラリー古藤の店
主、田島和夫さんは「求められることは、
担い手のワクワク感、楽しさである」と、江
古田映画祭について書いた論文(松本
恭幸編『地域でつくる、地域をつくる メ
ディアとアーカイブ』大月書店、2022年刊、
第9章「江古田映画祭」)で述べている。
毎回9月に1回目の実行委員会を開き、そ
の後、月1回のペースで開催、12月までに
上映作品、回数などのプログラムを決定
し、1月半ばから宣伝を開始して映画祭
を実現している。
 市民の手で全部お膳立てし、監督ら
製作者が喜んでやってくる映画祭の魅
力に、もっとマスメディアの関係者は敏感
になってみてはと感じている。マスメディ
アのコンテンツをつくる仕事をしている側
が、こうした市民の手づくりのパワーと連
携することがますます求められてきている。

鈴木賀津彦(すずき・かつひこ)
東京新聞(中日新聞東京本社)の記者として長年勤めた経験を活かし、定年退職後に複数の大学で非常勤講師としてメディア情報リテ
ラシーなどの授業を担当。特にデジタル・シティズンシップ教育に取り組む。記者時代から、誰もが発信者になる時代のメディアの在り方と
して、市民メディアの役割を重視、NPOなどで市民メディアプロデューサーとして活動。横浜市在住。

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