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なんちゃって文学部卒の読書日記

僕は文学部を卒業してはいるが、本の虫と言えるほどの読書習慣がなかった。しかし「文学部卒のお笑い芸人」にはやはり読書家というイメージがつきもの。だから帳尻合わせとして、卒業してから、本を読む習慣を身に着けようと文字を追っている。これはそんな、なんちゃって文学部卒の26歳男による文字追いの記録である。そしてそれを簡単に言うと、最近読んだ本の読書感想文である。著者敬称略。

西加奈子『漁港の肉子ちゃん』

裏表紙に「そっと勇気をくれる傑作」と記されていて、全くその通りだと思った。主人公の少女とその母親「肉子ちゃん」を筆頭に、登場人物は皆いきいきと描かれている。彼らは個性的でありながら、読者である僕たちの身の回りにいそうな親しみやすさを併せ持っている。栃木県という海なし県で育った僕でさえも、作中の「漁港」はまるで自分の故郷のように感じた。解説の中に「ありのままvs自意識」という表現が盛り込まれていたように、この作品は「子ども」から「大人」への成長過程に身を置く少女が、他者と関わりながら自意識とぶつかって生きる成長譚である。そして繰り返し申し上げているように、どんな読者にも「そっと勇気をくれる傑作」である。

素敵だなと思った表現を取り上げれば枚挙に暇がないのだが、ひとつだけ。

絶望的なほど派手なジャージを着ている

笹井宏之『えーえんとくちから』

26歳でこの世を去った夭折の歌人、笹井宏之氏のベスト歌集。笹井氏の言葉は世界を揺るがす力を持っている、と思った。その複眼的な言葉には、当たり前と思っていた、思い込んでいた世界の構造を根底からぶっ壊し再構築するための図面が包含されている。世界は、人間の目線で語られることで形を保っているのかもしれない。しかし鳥も犬も猫も、木も花も風も、テーブルも椅子も布団も、すべてはひとつの「生命」という点で同じであり等しく共存している。人間として生きる中で見過ごしてきたものを、そっと光らせて、僕たちに知らせてくれる。笹井氏の言葉は、やさしくて、たくましい。

あまがえる進化史上でお前らと別れた朝の雨が降ってる

川上弘美『真鶴』

今日届いたのでこれから読みます。

以上、なんちゃって文学部卒の26歳男による文字追いの記録である。貴方のおすすめの一冊を教えておくんなし。

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