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七月大歌舞伎 風の谷のナウシカ 上の巻 - 前説編  

”新たな古典”成立の瞬間に立ち会えるチャンス!


2022年4月26日七月大歌舞伎の演目が発表されました。第三部は「風の谷のナウシカ 上の巻 ー白き魔女の戦記」。 尾上菊之助が企画しナウシカを演じた2019年の新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」の大成功を受けての演目です。

注目されるのは配役。同じ演目の同じ役を 上演される毎に別の役者が演ずることで、型の継承やキャラクターの解釈の違いを楽しむという古典芸能ならではの楽しみがもうはじまっています。

初演時尾上松也が演じたユパ様は、坂東彌十郎(ポンコツ親父・北条時政!)。松也だといくらなんでも若過ぎだったので、年齢的には彌十郎位なんでしょうけれど、背が高すぎ… まあカッコいいからいいでしょう。関係ないけど彌十郎が出演している大河ドラマ『鎌倉殿の13人』には、松也が後鳥羽上皇で登場するのでこっちも入れ替わる感じです。

あと中村七之助のクシャナが主役級の存在感でカッコかったんですが、今回は菊之助がナウシカ役をほうってクシャナで登場。伝統歌舞伎の女性キャラは、とにかく酷い目に遭うことが多いわけですが、剣術・武術と権謀術数そして大きなビジョンで権力を握るクシャナは歌舞伎の文脈には全く存在しないタイプのキャラ。七之助もものすごく楽しそうに演じていましたが、菊之助が羨ましくなって自分で演ずるのも当然でしょう。

で、ナウシカは中村米吉。初演のケチャ役が育ちました。少女役という意味では菊之助のナウシカは正直辛かったんですが、その点米吉の可愛さはエル・ファニング級。とはいえナウシカは可愛いだけではつとまらないので、米吉にとっても、可愛いだけで喜んでもらえるポジションからシアーシャ・ローナン級へ成長する機会なのでは?

つーか、こんな風に”初演時は…”みたいな話になるって早くも古典として成立し始めてるってことですよね。15年後位に 寺嶋眞秀(寺島しのぶ息子)あたりがナウシカを演ずるのを観ることが出来きたりするんだろうか? そうなったらアスベルは、じゅふたん/尾上丑之助かな? とか今から想像して楽しくなる。観客が人気キャラに役者の将来の姿を妄想してあてはめて楽しめるって、古典ならでは。

あと時節柄 青と黄色 の扱いが気になります。風の谷のナウシカは愚かな権力者たちによる愚かな戦争のせいで、普通の人々が筆舌に尽くしがたいひどい目に遭う話。まあ上の巻なので7月はそこまで話がいくのかどうかわかりません。とはいえ、このタイミングで青と黄色が美しく舞台を埋め尽くして人々に希望を与える物語をもってくるという尾上菊之助の志もきちんと観客は受け止めるべきなんだろうと思います。