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求言令と求賢令〜曹操が支持されるわけ〜

横山光輝の三国志、全60巻を購入したのが3ヶ月前のこと。
小学校の頃に、僕はこの漫画に出会って何度も読み直してきた。
息子との会話で、何かの拍子に三国志の話題になり、

「人生で大切なことが書いてある」

というようなことを伝えたら、興味を持った(らしい)。

現在48巻を読了。ようやく諸葛亮の南蛮攻略が終わろうとしているあたりで、北伐敢行、泣いて馬謖を斬る、秋風五丈原とクライマックスへ続いていく。

漫画をきっかけに、三国志関連の歴史書はたくさん読んできたが、1000人以上の登場人物の中でも、主人公の曹操に魅了される人は多い。(僕も好きな人物を1人あげるなら曹操に落ち着く。)

破天荒に見えて緻密な軍略。
生涯現役で政治・軍事の指揮官として遠征。
兵法、詩文、楽府など多彩な才能。

例えるなら、ある一定の年齢になったので、ここからはマネジメント業務に徹するでもなく、ひとりのプレイヤーとして、いつまでも現場を大事にしているような上司。そういう人物像が曹操であり、彼の遺した詩文からは、人間の意思の力で困難を乗り越えようとする思いが伝わる。

それら全てが、生き様として格好良い。


曹操の遺した2つの文章

曹操の2つの令

曹操の遺した文章のうち、特に内容が強烈で、その構成が鮮やかなものがある。
求賢令、求言令、この2つの文章がそれにあたるが、漫画本の影響なのか求賢令の方だけが有名になっている。
実はもう一方の求言令こそ、彼がマネジャーとして、プレイヤーとして、臣下に何を求めていたのか垣間見ることができる文章だ。それに触れた時、ハッとさせられるものがあると思う。

求言令(言を求むる令)

常にげったんをもって、各々その失を言え。われ、まさにこれを見んとす。

206年、当時50歳ぐらいの曹操が、臣下に対し「求言令」を布告した。上の一文は、その末尾に残されている言葉だが、実は、前半からの文章構成を経て、この1言に辿り着くまでの流れがとても良いのだ。

①面従(うわべだけ従うような振る舞い)はNG

世を統治し治める者が戒めることは面従

令の冒頭に書かれているのは面従(めんじゅう)。
自身の位も高くなり、臣下の数も増えると、うわべだけ従うような人達が出てくる。自らの戒めとして、こうしたうわべだけのやりとりは良くないものだということから始まる。

②嘉謀(良い提案)を受け入れないのは自分に責任がある

良い提案を受け入れない責任は自分にある

次に、うわべだけでなく、「政治を良くしたい」という思いからの嘉謀(良い提案)を、最近は聞かなくなったと続く。聞かなくなったというよりも、曹操自身が広く臣下の言葉を受け入れていないことが原因であり、その責任は自分にあると評している。

③月旦(毎月1日)に、自分の失策を指摘して欲しい。必ず目を通す。

自分の至らないところを指摘して欲しい

最後に、この有名な言葉に続く。

常に月旦を以って、各々其の失を言え。
吾 将に焉を覧んとす。

毎月1日に、各自、私の至らないところを指摘して欲しい。
私がそれを見よう。

曹操・曹丕・曹植詩文選(岩波文庫)

自分の至らないところ、改善した方がよいところ、失敗だったことの振り返り、そうしたものを諫言してほしい。
位人臣を極めた上に立つ者が、自分を律するためにこのような行動を臣下に促しているところ。こういうところが曹操を魅力溢れる人物へと押し上げている気がする。

さらに文章は続き、自分と同じことを臣下にも求めているのがポイント。

④だから、皆も得失を明らかにして自己を顧みよ。

自分と同じように自己を顧みること

皆からもらった貴重な意見、これらを振り返りながら自分も反省する。それと同じように、みんなも毎月1日に、自分自身の良かったところ・改善すべきところを考えてほしい。その自己採点を紙に書いて投函すること。

それには必ず目を通す。
組織自体がもっと良くなるために、成長できるように。

こうした姿勢を令として発布しているところに、もう本当に格好良さが溢れているし、何よりも文章全体の美しさが際立っている。

以下全文。

求言令(言を求むる令)
夫れ世を治め衆を御し、輔弼を建立するに、戒むるは面従に在り。詩に称す、「我が謀を聴用せよ、こいねがわくは大いなる悔いの無からんことを」と。
これ実に君臣懇懇の求めなり。吾は重任に充てられ、毎に中を失わんことを懼る。頻年以来、嘉謀を聞かず。
豈に吾 開廷勤めざるの咎なるや。
今より以後、諸掾族の侍中・別駕は、常に月旦を以って各々其の失を言え。
吾 将に焉を覧んとす。

魏武の令
今より以後、諸掾族の侍中・別駕は、常に月朔を以って各々得失を進め、紙に書きて函に封じよ。主る者は朝に常に紙函各一を給せよ。

曹操・曹丕・曹植詩文選(岩波文庫)

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