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「体温が高いと癌にならない」は嘘

体温が高いと抵抗力が高くなって癌にならない?

「体温が高いと癌にならないし、抵抗力も高くなる」とどこかで聞いたか読んだ気がして思い込んでいたのですが、ふと「ホントかなぁ」と確かめてみたくなりました。そしてエビデンスを探しつつ、調べてみて驚きました。

むしろ逆

でした。今回は、調べて見つけたエビデンスや、いった誰が「体温が高いと癌にならない」とか「体温が高いと抵抗力が高くなる」と言っているのかを紹介していきます。

誰が言っているのか

おそろしい?ことに「体温が高いと抵抗力が高くなる」と喧伝しているのは医療法人や製薬会社だったりしています。

医療法人社団 神樹会 新横浜かとうクリニック


沢井製薬 サワイ健康推進課


医療法人社団 小白川至誠堂病院


医療法人 豊隆会 ちくさ医院

まだまだ出てきます……。「体温 免疫力」で検索するとわんさか出てきます。「体温が1度下がると、免疫力が30パーセント下がる」と名言しているところもありました(みつばち健康科学研究所)。


探しても探しても論文は見つからない

「体温が1度下がると、免疫力が30パーセント下がる」という内容にしろ、体温が上がると免疫力が上がるという内容にしろ、論文(英語)を探せど、探せど見つかりませんでした。むしろ逆の結果のものは見つかりました。のちほど紹介します。じゃあ誰が言っているのか?

「体温が上がると健康になる」という情報を発信、拡散しているのしているのは、齋藤 真嗣氏という医師の方の著書(のみ)でした。ばっちり「体温が1度下がると免疫力は30%低下する」と書かれているようです。

「カラーバス効果」という言葉も、『考具』という著書での隠れ造語でしたが、本1冊の影響力ってすごいですね、


エビデンスは、逆に「体温が高いと癌である可能性が高くなる」ことを示している

内科医・酒井健司さんの記事(※1)で紹介されている英国の医学雑誌theBMJに掲載されていた、アメリカの外来患者約3.5万人を対象とした平熱と病気の関連を調べた2017年の研究論文(※3)によると

低い体温と相関関係があったのは甲状腺機能低下症
高い平熱と相関関係があったのは肥満

でした。「高い平熱だと癌にならない」という話の根拠は、ここに観られないどころか、高い平熱だと癌である可能性が高くなる(相関関係がある)ということでした。酒井さんがおっしゃるようにここから言えるのは、高熱は癌の結果ということになります。というのも、癌は、細胞分裂が盛んのなので、代謝が上がります。代謝があがれば、体温が高くなる。また免疫反応でも体温は高くなります。よって癌→高い平熱 という相関が生まれます。ついでに他の関連についても触れていきましょう。

肥満と高い平熱

脂肪は熱を通しにくいので、脂肪を身に着けていると体温が高くなります。自前の上着を常に身につけているようなものですから。


甲状腺機能低下症と低い平熱

甲状腺ホルモンは、新陳代謝を促進するものなので、甲状腺機能が低下すれば体温は下がります(※7)。


死亡率

では平熱ともっとも関連のあるものは、実は死亡率でした。
平熱が高い人ほど死にやすい傾向がありました。0.149度の平熱が高くなると、8.4%、1年間の死亡率が高くなります。(an increase of 0.149°C (1 SD of individual temperature in the data) was linked to 8.4% higher one year mortality (P=0.014).)「平熱高いと免疫力も高くなる」というトンデモと事実は逆のようです。ボルティモア加齢縦断研究(※4)でも同じような結果で、体温が低い人より体温が高い人のほうが死亡率が高かったことがわかっています。

まず摂取カロリーの量と寿命は関連があり、カロリー制限すると長生きするという研究結果が複数あります(※6)。カロリーを制限するとカロリーを節約しようとして代謝が落ちます。代謝が落ちると体温も下がります。ということでカロリー制限 → 体温が下がる → 長寿となります。体温が下がれば、寿命が伸びるのではなく、カロリー制限の結果が、低い平熱と長寿ということです。


注意

老化制御研究チーム「分子老化制御研究」の研究部長、石神 昭人博士の「カロリー制限しても寿命は延びない」によれば、アカゲザルを対象にした研究で、WNPRCの研究とアメリカの国立老化研究所(NIA)が異なる結果を出しており、NIAでは、カロリー制限群と自由摂取群の間に寿命の差がみられませんでした。WNPRCとNIAの研究の大きな違いは、「自由摂取」の仕様の違いでした。NIAの自由摂取は、決められた量の餌であり、WNPRCは、食べ放題でした。「決められた量」が果たして「自由摂取」と言えるのか、というと「自由摂取」の考え方として、「自然な摂取」のニュアンスが、NIAにはあったのではないでしょうか。動物は、自由に食べるとしても、いつも好きなだけ食べられるわけではありません。WNPRCでは、自由摂取とカロリー制限に差が観られ、NIAには観られなかったのは、NIAの自由摂取は結構ヘルシーだったからみたいです。


結論

「体温が高いと癌にならない」は嘘

そもそも論拠がない。齋藤 真嗣という方の著書だけ。そして恐ろしい(というかよくある)ことに、論拠がほぼなくても「それっぽい」と話は拡散します。それも医療関係者たちを発言者として。「専門家が言っているなら」はいちばん意見な態度かもしれません。エビデンスはむしろ逆に、平熱が高いと癌であるかもしれない可能性すら示唆するものでした。

ところでなんですが「免疫力」って言葉自体、なにかと胡散臭いので、この言葉が出てきたら「自分で調べる」ってことをしてもいいくらいです。(わたしも「免疫力」について書いたことありますけど)。



参照

※1:内科医・酒井健司の医心電『「体温を上げて免疫力アップ」は本当か』

※ 2:東洋経済オンライン 岡田 正彦 : 新潟大学名誉教授、医学博士『「体温上げて万病予防」は、間違った発想だ』
※3:Individual differences in normal body temperature: longitudinal big data analysis of patient records
※4:High basal metabolic rate is a risk factor for mortality: the Baltimore Longitudinal Study of Aging.
※5:Experimental Obesity in Man: Cellular Character of the Adipose Tissue
※6:https://sitn.hms.harvard.edu/flash/2020/can-calorie-restriction-extend-your-lifespan/

※7:


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