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作編曲上のティンパニについて

ティンパニについて、作曲/編曲家の方からよく聞かれるので、まとめておこうと思いました(この記事は打楽器奏者の方ではなく、作編曲家や指導者の方に向けて書かれていますので、専門的なところは相当に省略しています)。特殊奏法も多くの前例と解説があると思うので省略します。

ティンパニの機構(システム)について

まず、今現在もっとも普及しているのはプラスティックヘッドのペダル式ティンパニです。ペダル式ティンパニといっても様々ありますが、その中でもバランスアクションのものが最も普及しています。この記事で言及するのも、バランスアクションのものです。

クラッチ式、ギア式、ハンドル式などいろいろありますが、基本的にほとんどはペダル式で、ペダルを奥に踏みこむと音程が上がり、手前に踏むと音程が下がる、と考えてください。

音程を変化させるためにペダルを操作しますので、一度音程を定めたら基本的には音程は動きません。バランスアクションのバランスが崩れていると、打ったら音程が変わるということがあります。中学校吹奏楽部ではよく見られる現象です。

楽器名の表記について

Timpani、としておけば基本的には問題ありませんが、4 Timpaniなどと書く場合もあります。4台以外の場合は基本的に使用台数を冠した方が無難でしょう。1台だけの場合はTimpanoです。

ドイツ語表記ではPauken(Pauke)、フランス語ではTimbales(Timbale)です(カッコ内は単数形)。

Timpani(C,G)など音程名を書く場合もありますが、現代ではあまり見かけません。また、ペダル式、クラッチ式といった機構に関する表記は不要です。

台数とサイズについて

4台の場合・・・基本的には32",29",26",23"です。これが一番オーソドックスです。

2台の場合・・・基本的には29",26"です。モーツァルトやハイドンなどは2台、と考えておいてください。

3台の場合・・・29",26"に加えて32"もしくは23"のどちらかを使います。3台の場合のセッティングは、4台の並びから1台を省略した形になります。ですので、奏者は29"と26"の間に譜面台を立て、その延長線上に指揮者が来るように並べます。

5台の場合・・・32",29",26",23"に加えて20"が使われます。たまに聞かれますが、35"は無いです。

音域について

恐らく皆さんが興味を示される第1のポイントだと思います。画像を作りました。

Timpani音域

恐らく最も一般的なヤマハの5000番台の、最も一般的なチューニングを想定しています。各サイズごとに4つ、音が書かれています。左から順に

①ペダルを下げ切った時に出る音(小さい音符)

②良いサウンドが得られる最低の音程(大きい音符)

③良いサウンドが得られる最高の音程(大きい音符)

④ペダルを上げ切った時に出る音(小さい音符)

です。要は『F~Fで書く』『3度ずつくらい離す』で大体OKです。

サイズごとの使い方について

32"は明確な音程が得られにくい代わりに、強打の際は効果的なサウンドが得られます。23"はクリアな音程ですが響きが少なく、弱音に向いています。29"はGくらいまで下げても、私はあまり気になりません(楽器にもよるでしょうけれども・・・)。

『決め所でバーン!』は、32"もしくは29"が良いでしょうし、『ポン、ポン、ポン・・・』という静寂感は、23"のEやFなどが適しています。トレモロでcresc.する際は真ん中の2台が適しています。

ペダルを使用した音程の変化について

皆さんが気になる第2のポイントです。

上の『音域について』で示した小さい音符は、ペダルの上限・下限ですから、すなわちその音には簡単に移動できるわけです。どうしてもその音程が欲しい、という場合はこれらの音から選択すれば、とりあえず演奏は可能です。ただし、直前に同じサイズで演奏させるのは避けた方が良いでしょう。

例えば、次のような譜例です。

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まずこの時点で相当難しい譜面ですが、恐らく大体は次のようなサイズを充てるのではないでしょうか?

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・・・と、ここでxx"とyy"が考えなければならなくなるわけです。

29"の最低音Fを利用するのであれば、練習番号F近辺ではトレモロをしながらペダリングをせねばなりません。そうすると、このトレモロには必ずグリッサンドが掛かります。

こういうことを避けるために、直前までペダリングするのと同じサイズを使うのは避けたいわけですね。ちなみにこの場合の正解(?)は次の通りです。

①音色は犠牲にしてもペダリングを楽にするパターン。26"のAはあまり効果的ではありません。

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②音色のためにペダリングが大変になるパターン。(※は演奏しながらのペダリングです。)上の方が音が良いので一般的だと思いますが、下でも可能です。ただし29"でFは、強打に使うのはちょっと・・・です。

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このあたりに気を付けて書いていただければ、無難だと思います。

音程の選択について

ちなみに『使いたい音程に難がある』という場合があります。前後の関係でどうしても・・・というパターンです。

S.Prokofieff / Peter and the Wolf, Op.67を見てみましょう。この曲は3台で書かれています。勝利の行進、練習番号44でTimpaniはEs,G,Cを使用しています。32"(Es), 29"(G), 26"(C)というわけですね。

ところが練習番号45の4小節前あたりではこの3台では賄えない和音が使われています。ProkofieffはここにBassDrumを充てているわけです。ですが4台使えたのであれば恐らく、違う音程(おそらくDあたり)を充てていたのではないでしょうか。

これはどうにも解決しない問題なので、最初からBassDrumに任せてしまうのが無難だと思います。ペダリングを激しくしても、足の動きはお客さんからは見えないので演奏効果に欠けるのと、やはり音程が安定しにくくなるリスクを考えると、そもそものTimpaniの使い方を見直す方が良い場合が多いと思います。

余談ですがこのBassDrumパートを演奏したときに、どう表現して良いのかわからず四苦八苦した挙句、誰にも何も突っ込まれなかったので、異様に疲れたのを覚えています。練習番号50ではSnareDrumが大活躍ですので(キージェ然り、なぜこんなに難しいパートを書かれたのですか・・・)、あまり気にならないのですが。

マレットの選択について

皆さんが気になるポイントその3です。

持ち替えるのに必要な時間は概ね5秒だと思ってください。5~10秒あれば中学生でも持ち替えられます。もっと速く出来る場合もありますが、奏者の血圧も上がります。作曲家・編曲家の皆さま、お願いです。5秒は確保してください。

さて、Hard~SoftまであるTimpaniマレットですが、シャフトや芯なども様々です。アルミシャフトや竹シャフト、頭もフェルト巻きあるいはセーム皮からバロックシュレーゲルのように木のもの、そしてフランネルなど、本当に様々です。その中でHard~Softまで指定しても、あまり効果的ではありません。マレットに関しては奏者に任せた方が無難な場合が多いと思います。

ただし、何らかの理由で指定が必要な場合は、with hard malletsなどの表記で指定することになります。

最後に

ティンパニも含めて、人それぞれ考え方は違いますから、是非色々な方に考えを聴いたり、あるいは実際に音を出してみたりしてみてください。ここに書かれていることと違うかもしれませんが、それだけ様々な考え方のある楽器です。

それでは!


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