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わたしは窓際のうしろ、あなたは真ん中の真ん中。

別に誰からも嫌われていなくて、人当たりも良くて、成績もいい同級生がいた。高校生の頃だ。
彼女には友達もたくさんいて、恋人はいないがまだそういうのには興味が無いみたいで、代わりみたいにガールズグループを推していた。そのグループに憧れて、自分も似たようなファッションをしてみたりしていて、可愛らしいものだった。
実際細くて背も高くて、顔も小さくて肌も綺麗で、これと言って強い欠点となり得るパーツは個人的には見当たらなかった。細すぎて心配になることはあった。
彼女は、少しオタク文化をバカにするきらいがあった。それと、自分に得にならない人間にはあからさまに冷たいところがあった。わたしは彼女のそういう一面が怖くはあったが、人としてかなり強かで賢い生き方に見えて、わたしはああはなれないな、とあこがれに近い感情を抱いていた。
わたしはというと、人を選んでオタク話をするタイプの大人しいオタクで、彼女より少しだけ成績がよかったため、特に嫌われることも無く、少しライバル視されていた。正直成績はどうでもよかったが、彼女が楽しそうに競って学びに熱心になっているのを見るのは嬉しかった。わたしが点数で勝っている時も、どこか楽しそうに悔しがっていたし、わたしに勝てた時は本当に無邪気に喜んだ。わたしをひとつの起点にしてくれていたのが、わたしはうれしかった。
彼女は気持ちがいいほど自分のために生きていたように見えるし、清々しいほど「人からよく見られたい」という気持ちを包み隠さず表に出していた。予備のリボンを貸してくれたのも、ペンケースを忘れたとき一式貸してくれたのも、指を怪我した時ばんそうこうを渡してくれたのも、思い返せばほとんど、彼女がした事だった。やらない善よりやる偽善。
わたしは彼女が推しているグループに一切興味がなかったり、彼女ほど貪欲に日々を生きていなかったから、彼女と特別仲良くはなれなかった。選択科目も途中で分かれて、競うこともだんだん減った。
高校3年間彼女とは同じクラスだったが、終ぞ親しくならずプリクラも一緒に取らず、ただただお互いの成績だけを見て、一喜一憂する不思議な関係だった。わたしは、彼女のことが少し怖かったが、嫌いではなかった。仲良くは出来ないかもしれないが、人間性は好ましいと思った。性格は良くないのかもしれないが、生きるのが上手だと思っていた。
彼女がわたしのことをどう思っていたのか、本当のところは知らないが、もしもっと仲良くしたいと思ってくれていたとしたら惜しいことをしたなあ、彼女から学べることは沢山あったのに、と思う。もしわたしの「オタク」っぽい部分に勘づいて内心気持ち悪く思っていたなら、あの距離感を保っていてよかったと、思う。


数年後、同じ高校だった子何人かそれぞれと、その子について話すことがあった。
おどろいた。彼女と仲良くしていた、いわゆる同じグループに属していたあの子も。彼女と放課後仲良く勉強していたあの子も。彼女が初めて運転する車に乗せてもらったらしいあの子も。彼女と大した接点があるように思えなかったあの子も。

みんな、口を揃えてこう言った。

正直、あんまり好きじゃなかったんだよねえ。


彼女は今も、自分のために生きているだろうか。どうか、どうかそのままでありますよう。どうか、今も打算的に、あのときのまま、純粋に人を妬んで羨んで憎んで、それを包み隠さないあの子のまま、大人になっていて欲しい。変になにかに勘づいたが最後、それに足を引っ張られて立ち上がれなくなるかもしれない。昔のことなんて思い出さず振り返らず、今だけ見ていて欲しい。昔の自分の犯した過ちも、昔の自分が残した悔恨も。ぜんぶぜんぶ忘れていて欲しい。

わたしは、わたしの点数を超えたことを知った瞬間の彼女の無邪気な、弾けるような笑顔と、得意げに「勝ち」と言うところが。

結構、好きだった。

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