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牛と暮らした日々-そこにあった句#36 お正月

牛に口牛に尻ある大旦  鈴木牛後
(うしにくちうしにしりあるおおあした)

酪農家には盆も正月もない。
いつも通り、牛に餌をやり、糞尿の掃除をし、搾乳をしている。
おまけに例年では夫婦2人だけだったので、余計にいつも通りだった。

子供たちは、去年までは帰って来なかった。大晦日まで仕事だったり、冬は天候が悪いので飛行機の欠航が心配だったり、帰省ラッシュが嫌だったり、飛行機代が高い、などという理由だった。(今年はここで迎える最後のお正月なので帰って来た)

さて酪農家の家では、大晦日も夜7時まで仕事をし、蕎麦を軽く食べて紅白を見ているうちに眠たくなるので、9時には寝てしまう。
翌朝、元旦も朝5時から仕事だ。

乳搾る玻璃に初日の来てをりぬ 牛後
(ちちしぼるはりにはつひのきておりぬ)

元旦が集乳日じゃなければ少しだけ休日気分になるのだが、今年は集乳日だった。(うちは2日に1回、集乳車が来る)

ちやりぢやりとタイヤチェーンの鳴る初荷 牛後
(ちゃりじゃりとたいやちぇーんのなるはつに)

朝ご飯の時に、録画してあった昨晩の紅白の残りを見ながら、少々のお節料理と日本酒と年賀状だけがお正月気分だった。

雑煮椀牛の乳房を揉みし手に 牛後
(ぞうにわんうしのちぶさをもみしてに)

そして、また夕方から仕事だ。
このように、大晦日も元旦もなく仕事をしていても、世間(農協や役場や取引先)が休みだと何となく休日気分なのだが、それも3日になると、ほとんどまったく日常に戻っている。

ああ言へばかう言はれたる三日かな 牛後
(ああいえばこういわれたるみっかかな)

 


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