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家族のできごとワースト部門1位。「ま・さ・か!!」のオレオレ詐欺に騙された話し

「うちの親父もとうとうやっちゃったよ」
兄から珍しく電話がきた数年前の出来事を思い出した。

当時、私は金沢に住んでいた。母が他界してからは、実家の茨城からすっかり足が遠のいていたので、兄からの突然の電話に胸騒ぎがおきた。
「親父もとうとう」というフレーズに「うわ~父が倒れたのか?」と不謹慎にも葬式の2文字がうかび、数日後までのスケジュールが頭の中をかけめぐった。
ドキドキしながら「どうしたの?」と返事をすると
「振込詐欺で100万やられた」と。

「へ?フリコミサギ?」
葬式までもイメージしていたので、拍子の抜けた返事を返してしまった。
そう、あのオレオレ詐欺に騙されたという話だった。

私の気の抜けた返事が、兄の感情を逆なでしたのか。
続けざまに「あんなのに100万もだぜ!ありえないわ!」と憤慨し、
数日間の大雨の後に、限界まで達したダムの決壊のごとく
怒涛の勢いで父のダメさ加減を並べはじめた。

そんな過去の封印したいような出来事を思い出したのは、今朝のニュースをみたからだ。「電子マネー詐欺をコンビニ店員が防ぐ」という見出しだ。

「詐欺」という二文字がめちゃくちゃ身近になった、我が家のワースト部門の輝かしい第1位を飾る出来事が頭の中でリプレイし始めた。

ニュース番組でながれる「詐欺」という言葉。実際に体験するとか身近な人が巻き込まれることがない限り、宇宙の果ての遠いどこかの話しだろう。
自分の家族が!の「ま・さ・か!!!!!!!!」
は、意外と身近におこりうる。体験したワーストな出来事とはいえ、かなり興味深かった。

内容を聞くとまさに!ニュースで流れているフローを、そのまま忠実に再現していた。電話が鳴り「あーオレオレ」というやつである。

父は、70代も後半。もうすぐ80歳になろうかという年齢。健康にも気をつかい、日課の運動もやりこなす。元気で病気にもかかったことがほとんどない。
まぁ、耳が遠くなったとか、若干、話がリピートしがちとか。
話しの文脈がずれるかなぁ~なんていう程度。
(年齢に応じた衰えは、許容範囲だよね)

気質もいわゆる職人だ。昭和11年生まれで、幼少期は、両親や兄弟とも別れ別れになり、苦労して電気工事士の技術をみにつけた。口数もすくなく、母の愚痴では仕事しかない真面目人間。
(それだけあったらええやんと、いつも聞きながら思っていた。)
事務仕事みたいなことは、かなり苦手だったと記憶している。銀行の入出金なんてどうしたんだろう?と素朴な疑問が頭に浮かぶくらい得意分野がかたよっていた。

兄は、憤慨して父のプライドをかなり傷つけた。
そりゃ、100万だもんね。くやしいやろうと思う。自分の名前を語られて、だまし取られたのだから、腹がたってしょうがない感じだった。
「俺がそんなことで、電話するわけないだろ!!!!!!」と。
「他人にタダでやるくらいなら、俺にくれ!」とまで思うだろう

父も兄に言われるまでもなく、「ショックだ!」
家族のために貯めてきた資金を、赤の他人に「サクッ」とあっけなくとられてしまったんだから。言い訳もできない。息子の窮状を想い、必死で動いてしまった結果のことで、兄にあたるわけにもいかない。

「オレオレ詐欺」が悪質なのは、家族のお互いを思いやる「良心」を利用してお金をだまし取っているところだ。巧妙としかいいようがない。

耳が少し遠くなった父が電話に出て(家族のような気安さで息子のふりをして)困った窮状を訴えかけられる。

そりゃ、慌てちゃって、「おれが、なんとかするばい!」って父親の魂に火もつくし、苦手な銀行にだって必死で行くやろうと思う。

そして、罪深いところが、2つの心理崩壊が起こることだ。
「そんなことに騙されるほど老いたのか」という家族からの非難。
実際に言わなくても、無意識にそう言われているように感じて家族の信頼関係が揺らいだ。そして、父自身も「そこまで衰えたのか?」という自尊感情が揺らいでいた。

実害よりも、みえない心理的なセカンドダメージがかなり大きかった。

調整役の母がいないので、わたしの頑張りどころではないだろうか?と
兄に、父の兄への想いを代弁し、父には、「兄への父の想いが大きいことを知れて感動したわ」とだいぶピントのずれた視点の感想を話した気がする。
まったく、調整にもなっていない。へたっぴいな仲介だったなと思う。

まぁ、家族の誰かが身体的に傷ついたという話ではない。父の資産をどう使おうがそれは父の想いでのことなので、私らがとやかく言うものでもないということで、決着した。

それでも詐欺の出来事のあと、父と兄の親子関係までもが危うくなった。
5年くらいたってるけど、今もシコリが残っているような気がする。
お互いを想う良心を利用するというのは、あまりにも卑劣だ。

そして、騙す側に雇われていた若いひとも、安易に稼げるからと誘われていつのまにか巻き込まれているパターンもあるんじゃないかと思う。安易なアルバイトが、大切な人が出来た時なんかに、暗くのしかかるだろう。

見かけたニュースは、電子マネーをコンビニで購入させるという手口らしい。コンビニでは、高額な電子マネーを購入しようとする方に、何故必要かという踏み込んだことを確認しているという。騙されていると知らないお客様にちょっと踏み込んだことを伺うのは、ある意味リスクでもある。逆に店員の態度が気に食わないというクレームにもなりかねない。それでも店員同士でロールプレイまでして、被害にあう人を少なくしようという努力は、本当に素晴らしい。

騙されそうになっていた人は、騙されずにすんでよかった。
騙す側の人も、(たったひとりかもしれないけど)
罪を犯さずにすんでよかった。

感謝状が贈られた店員さんは、「当たり前のことをしただけです。」というコメントをされていた。その「当たり前」のことを行動できるってことが難しい世の中になっている気がするから、なんだか、関係ない私までも救われる記事だったなぁ。

あたりまえのことをアタリマエに
あたりまえって何だろうね。



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