UCIワールドカップ2020-2021 第3戦「デンデルモンデ」
シクロクロス3大シリーズ戦の1つ「UCIワールドカップ」の第3戦が、12/27(日)にベルギー・オースト=フランデレン州の街デンデルモンデを舞台に開催された。
初開催となるこのコースは、元々は2段構えの大きなフライオーバーが注目されていたコースだったが、運悪く西ヨーロッパを直撃した冬の嵐「ベッラ」の影響によりこのフライオーバーを含む橋が撤去。
そして降り続ける冷たい雨によるドロドロの路面と寒さとが、この日選手たちを苦しめることになる。
女子レース
泥にまみれすぎてまともに走れないコンディションのため、今期最も遅いラップタイムを記録したことで、周回数はたったの4周に。
とくに芝のキャンバー区間の「底」に位置するラインに泥が溜まり、まるで落とし穴かのように足を嵌めて進めなくなる選手が続出。もちろん、キャンバーの上の方を走ればいいのだが、泥で重くなったバイクを担いで雨でスリッピーになった芝のキャンバーを登るのはまた至難の業。
アップダウンがほとんどないこの日のコースにおいては、最終的にはこの(泥の)芝キャンバーが最も大きな勝負所となり、ここでほとんどミスすることのなかったルシンダ・ブラント(テレネット・バロワーズライオン)が今期10勝目。UCIワールドカップでは開幕から続く3連勝目を飾った。
そして一時はブラントを10秒以上突き放して先頭を走っていた世界王者セイリン・アルバラード(アルペシン・フェニックス)を、後続から徐々に追い上げていって最終周回(4周目)にてついに追い抜いたアメリカ王者クララ・ホンシンガーが2位。
【UCIワールドカップ第3戦デンデルモンデ 女子リザルト】
【UCIワールドカップ第3戦までの総合成績(女子)】
ブラントが120ポイントで総合首位を独走する一方、ホンシンガーが前節2位に続く2度目の2位でその合計ポイントを60ポイントにまで積み上げ、総合5位にジャンプアップ。
総合3位デニーセ・ベツェマ(パウェルズ・サウゼンビンゴール)、総合4位カタ・ヴァスはともに今日のレースで苦しみ、ホンシンガーとのポイント差が次節で逆転されかねないほどにまで縮められる格好となった。
前節のUCIワールドカップ第2戦「ナミュール」の記事でも触れたように、このホンシンガーはそれまで15年に渡りアメリカシクロ王者の座に君臨し続けてきたケイティ・コンプトンを昨年打ち破ってアメリカ王者になった女である。
総合4位、今日も7位と悪くなく、UCIワールドカップU23総合首位の座を守り続けているカタ・(ブランカ・)ヴァスと合わせ、注目すべき若き才能である。
男子レース
フライオーバーがなくなったとはいえ、女子レースで混乱を巻き起こした芝のキャンバーを、男子はいかにして攻略していくのか・・・と期待していたが、あまりの酷いコンディションに運営側もこのままではいけないと悟り、男子レース開幕前にこのキャンバー区間がキャンセルされることに。
結果、登りもほぼなく、ひたすら泥にまみれた平坦路をパワーで踏み抜いていくコースとなった男子レース。全部で7周回のレースとなった。
序盤こそ鬼門の下り区間でコルネ・ファンケッセル(トルマンス・シクロクロスチーム)が落車してその影響でワウト・ファンアールトが遅れを喫する場面もあったが、1周目のフィニッシュ地点では先頭を走るクエンティン・ヘルマンス(トルマンス・シクロクロスチーム)とマチュー・ファンデルポール(アルペシン・フェニックス)に合流。
そして2周目にはファンデルポールと共に先頭に躍り出て、ヘルマンスやワールドカップ総合首位のマイケル・ファントーレンハウト(パウェルズ・サウゼンビンゴール)らを突き放す格好となった。
さらにスーパープレステージ第6戦「ガーフェレ」でファンデルポールを打ち破り、前節の「ナミュール」でもここに食らいつく走りを見せたトム・ピドコック(トリニティ・レーシング)はこの日は大失速。
2周目のフィニッシュ地点ではそれでもまだ先頭ファンアールトらからは33秒遅れでトーン・アールツよりも前にいたのだが、その後はさらにずるずると遅れ、最終的には途中でバイクを降りる結果となってしまう。
寒さにやられたのか、それともアップダウンの少ない重馬場ステージは体重の軽い彼にとっては大きな不利になってしまうのか。ピドコックは今、マチュー・ファンデルポールとワウト・ファンアールトに最も近い才能を持った男であることは間違いないのだが、昨日のスーパープレステージ第7戦「ヒュースデン=ゾルダー」の9位と合わせ、安定感のなさが課題となっている。
一方、高い安定感を売りにしていたマチュー・ファンデルポールだが、3周目において少しずつワウト・ファンアールトに突き放されていくことに。
そのまま、ファンデルポールは2度とファンアールトの影を踏むことはできず、周回を重ねるごとにそのタイム差が30秒、1分、1分半、2分・・・とみるみるうちに開いていく。
最終的にはワウト・ファンアールトがまさかの圧勝。今期は先週のX2Oトロフェー第4戦「ヘーレンタルス」に次ぐ2勝目となるわけだが、そのときはファンデルポールのパンクに助けられた感もある中で、今回は真正面から力で完全にファンデルポールを叩きのめした形となる。
全体的に乗車率が低く担ぎ・ラン区間の多かった今レース。他の選手たちとの比較であればいざ知らず、ファンアールトvsファンデルポールというレベルにおいては、この「自転車に乗らない区間」での優劣はファンアールトに軍配が上がるのかもしれない。そういえばナミュールのときも、バイクを降りなければならない超激坂区間で一度、ファンアールトに追い抜かれるときがあった。
そして、この日の勝利でファンアールトは、マイケル・ファントーレンハウトから今期のUCIワールドカップ総合首位の座を奪い取ることに成功した。
一方のファントーレンハウトは、奪われるのは仕方ないとして、その傷口を最小限に抑え、UCIワールドカップ残り2戦での逆転の芽を残しておきたかった。
そのために奮起するファントーレンハウト。一度は抜け出して単独3番手に躍り出ていたトーン・アールツ(テレネット・バロワーズライオン)を5周目に追い抜いて3番手に。
2番手を走るマチュー・ファンデルポールとのタイム差も30秒を切るレベルにまで近づき、まさか、を思わせる走りをしてみせた。
しかし、アールツが抜かれたのは彼が泥の下りでオーバーコースしてしまうミスをしたのが原因であった。地力ではこの日、ファントーレンハウトを上回っていたこの元ワールドカップ覇者は、6周目で再度ファントーレンハウトを追い抜き、単独3位に。
さらにはファンデルポールとのタイム差を最大で15秒にまで縮める瞬間まであり、まさかの「怪物倒し」の可能性すら感じさせた。
だが、さすがのファンデルポールも、最後は粘りを見せる。
結果的に、ファンアールトからは3分近いタイム差をつけられたものの、アールツからは17秒差で逃げ切り2位フィニッシュ。
「最強」の意地を見せる結果となった。
【UCIワールドカップ第3戦デンデルモンデ 男子リザルト】
そして総合成績では先述した通りファンアールトが総合首位に。
総合2位ファントーレンハウトは4位フィニッシュで22ポイントしか手に入れられず、ファンアールトとのポイント差は11ポイントに。
残るワールドカップは2戦。まだまだ逆転不可能なポイント差ではないが、完全に全盛期に近い実力を取り戻しつつあるファンアールトとの11ポイント差を追い抜いていくのはなかなか難しいと言わざるをえない。
【UCIワールドカップ第3戦までの総合成績(男子)】
むしろ、ファンデルポールがファントーレンハウトと14ポイント差の総合3位に。
そしてアールツもまた、ファントーレンハウトと18ポイントの総合4位に浮上してきている。
他の3大シリーズ戦もこの終盤にきてにわかに先の読めない展開となってきているが、それはこのUCIワールドカップも同じ状態と言えそうだ。
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