スーパープレスティージュ2020-2021 第7戦「ヒュースデン=ゾルダー」
シクロクロス3大シリーズ戦の1つ「スーパープレスティージュ」の第7戦が、12/26(土)にベルギー・リンブルフ州の街ヒュースデン=ゾルダーを舞台に開催された。
かつてF1が開催されていたサーキットを利用したコースは、2016年の世界選手権でワウト・ファンアールトとマチュー・ファンデルポールの激戦が繰り広げられた因縁の地。
アップダウンが激しいパワーコースで、コンディションとしても非常にドライ。乗車率の多いハイスピードな展開となった。
女子レース
今回は5周。
序盤の急勾配区間でルシンダ・ブラント(テレネット・バロワーズライオン)がミスをして足をついたことで、1周目は王者ブラントを欠いた先頭集団4名(セイリン・アルバラード(アルペシン・フェニックス)、アンマリー・ウォルスト(777)、インゲ・ファンデルヘイデン(777)、デニーセ・ベツェマ(パウェルズ・サウゼンビンゴール))で通過するも、2周目からはすぐさまブラントが追いついて追い抜き、先頭へ。
先の4名にブラントを加えた大体いつも通りのメンバーが揃う形となった。
全8戦のスーパープレステージは今回含めてあと2戦が残っている形に。
現在の総合成績は首位ルシンダ・ブラントを世界王者セイリン・アルバラードが2ポイント差で追いかける格好。
そして総合3位のデニーセ・ベツェマは、ブラントと12ポイント差で総合逆転はほぼほぼ現実的ではない。
となれば、ブラントにとってみれば、アルバラードから1ポイントも奪われないように戦うことが最優先事項であり、今日の勝利自体は決して重要ではない。
アルバラードにとってもそれは同様で、ブラントが1つでも順位が上でフィニッシュすることによって、最終戦における逆転の可能性を確実に押し広げる格好となる。
結果、今年最強格のこの2人が互いに互いを警戒し牽制し続けたなかで、これまでにないくらいに先頭集団のペースが落ち込み、抜け出す選手もいない中で、4名による小集団スプリントというシクロクロスでは珍しい展開で決着した。
そうなると、ロードレースにも強いブラントのスプリント力が頭一つ抜けていた。加速するブラントの背後にぴったりとくっついてチャンスを窺っていたアルバラードも、まったくそのスリップストリームから抜けることすらできないまま、2番手フィニッシュに沈むことしかできなかった。
【スーパープレステージ第7戦ヒュースデン=ゾルダー 女子リザルト】
【スーパープレステージ女子 第7戦までの総合リザルト】
この結果、総合首位ブラントと総合2位アルバラードとのポイント差は3ポイント差に。
これで最終戦「ミッデルケルデ」(2/6)にてアルバラードが逆転総合優勝するには、ブラントから4つ以上は順位が前でないといけなくなる。
現在の二人の実力差を考えるとそれはかなり難しいと言わざるを得ず、ブラントが今年のスーパープレステージを獲る可能性が飛躍的に高まったと言えるだろう。
あとは、変なトラブルさえなければ・・・。
男子レース
男子は9周。
マチュー・ファンデルポール(アルペシン・フェニックス)、ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィズマ)、トム・ピドコック(トリニティ・レーシング)、エリ・イゼルビット(パウェルズ・サウゼンビンゴール)といった今年最高峰の実力を示す選手たちが全員揃った期待の一戦であったこの日。
しかしスタート直後の鋭角コーナーでテレネット・バロワーズライオンの選手がフェンスに引っかかって落車。このすぐ後ろにいたピドコックが巻き込まれ、ほぼ最後尾のスタートとなったことで事実上本日の優勝争いからは脱落してしまったことが、まず最初の悲劇となった。
さらに、1周目で一時先頭に立っていたワウト・ファンアールトがまさかのパンク。水曜日のヘーレンタルスではファンデルポールがパンクの憂き目にあったことで勝利を掴んだファンアールトだったが、この日は逆に彼がその洗礼を受けて1周目を14秒差の17位で通過するという結果に。勝利の神様は平等なのか。
この隙にファンデルポールが単独で抜け出し、早くも独走を開始した。
そして第3の悲劇は、唯一残ったライバルたるエリ・イゼルビットを襲う悲劇となった。
焦りからかコーナーでややオーバースピードでフェンスに突っ込み、落車するイゼルビット。
それだけならまだよかったかもしれないが、その背後にいたコルネ・ファンケッセルやラース・ファンデルハールが倒れたイゼルビットに乗り上げる形に。
その結果、左肘を痛め、あまりの苦痛に動けなくなるイゼルビット。
彼はそのまま病院へ直行。総合首位に立つこのスーパープレステージの最後から2回目のレースで1ポイントも獲れずにリタイアという、あまりにも悔しい結果に終わってしまった。
そして、ライバルをすべて、彼ら自身のアクシデントによって失ったファンデルポールはもはや邪魔するもののいない一人旅状態となる。
ある意味、いつもの彼らしい戦い。しかしヘーレンタルスでも敗北しながらも良いレースだったと感想を告げるなど、ここ数週間の接戦に新しい感動を覚え始めていたように思えるファンデルポールにとって、この日の勝利はもしかしたら、やや退屈だったかもしれない。
一方、イゼルビットの脱落によってにわかに騒然とするのが2位集団および遅れたピドコックも入り込んだ3位集団の中でのポイント争い。
現在、総合首位イゼルビットはこの日1ポイントも獲れないことが確定したため、総合逆転のチャンスを掴んでいるのがイゼルビットから4ポイント差の総合2位トーン・アールツ(テレネット・バロワーズライオン)である。
【参考:スーパープレステージ男子 第6戦までの総合リザルト】
しかしこのアールツもまた、序盤の混乱に巻き込まれ(もしかしたら最初のピドコックを巻き添えにした落車はこのアールツだったかもしれない)、2番手集団から20秒遅れで4周目を通過した第3集団の中に取り残されていた。
2番手集団は6名。総合3位マイケル・ファントーレンハウト(パウェルズ・サウゼンビンゴール)、総合4位ローレンス・スウィーク(パウェルズ・サウゼンビンゴール)、総合5位ラース・ファンデルハール(テレネット・バロワーズライオン)、総合6位コルネ・ファンケッセル(トルマンス・シクロクロスチーム)、総合7位ダーン・ソート(グループヘンス・マースコンテナーズ)、そしてワウト・ファンアールトと、総合上位勢がほぼ全員入り込んでいる。
たとえばもしファントーレンハウトがファンデルポールに次ぐ2位でフィニッシュし、アールツが第3集団の先頭を獲って7番手でフィニッシュしたとしたら、現在11ポイント差の彼らのポイント差が6ポイント差に。
今回も含め、ここ最近のアールツの不調ぶりとファントーレンハウトの好調ぶりを見ていると、あと1レースしかないとはいえ、このポイント差は決して楽観視できるものではなくなる。そもそもこの日、アールツが7位、すなわち第3集団の先頭を獲れるとは限らないのだから(何しろその集団には、ピドコックも含まれているのである)。
だが、総合3位ファントーレンハウトと総合4位スウィークとのポイント差は3ポイント。さらにスウィークと総合5位ファンデルハールとのポイント差は1ポイントという超接戦状態にあるこの第2集団の面々もまた、互いに互いの出方をみる大牽制状態になるには十分すぎる状態である。
結果、女子レースのとき同様にこの第2集団が一気にペースダウン。追いつくことは不可能と思われていたアールツたち第3集団が第2集団の背中を捕らえられるところにまで近づいてきた。
この状態を見て、もはや勝利がない以上総合争いを邪魔しないとでも言いたげに第2集団の最後尾をひらひらとしていたワウト・ファンアールトが、痺れを切らしてアタック。
さすがにファンデルポールには届かなかったものの「元」第2集団の面々を圧倒し、余裕の2位フィニッシュを果たすこととなった。
そして残された「元」第2集団から、まさかのファントーレンハウト脱落。
3番手フィニッシュを果たしたのは総合5位のファンデルハール。彼と1ポイント差のスウィークももはやチームメートのファントーレンハウトを助ける余裕などなく、彼を切り捨てて4番手フィニッシュ。
そしてファントーレンハウトは5番手となり、アールツとのポイント差を縮める最大のチャンスを不意にすることとなった。
そして肝心の総合2位トーン・アールツは、ピドコックのいる集団の中でしっかりと力を発揮し、彼を突き放しての7番手フィニッシュ。最悪な状況の中で得られる最大の成果を手に入れる結果となった。
【スーパープレステージ第7戦ヒュースデン=ゾルダー 男子リザルト】
【スーパープレステージ男子 第7戦までの総合リザルト】
これで、2020-2021シーズンのスーパープレステージ総合争いは、最終戦「ミッデルケルデ」(2/6)を前にして、トーン・アールツが首位に躍り出ることに。
イゼルビットは肘の骨折ではなく脱臼で済んだということで、最終戦への万全の状態での復帰は十分に可能。
となれば、このアールツvsイゼルビットによる5ポイント差というのは、2人の調子の好悪が読み切れない中で、実に白熱した戦いを期待できるポイント差であると言える。
一方のファントーレンハウトがアールツとの9ポイント差をひっくり返すことはほぼ絶望的に。今年のスーパープレステージの総合争いは、アールツとイゼルビットの2人に託されることがほぼ決定した。
後は総合表彰台争い。総合3位ファントーレンハウトと総合4位スウィーク、総合5位ファンデルハールとの3人のポイント差はわずか2ポイント。
だれが総合3位の位置につけてもおかしくない。ファンデルポール、ファンアールトの2大巨頭の実力の高さを完膚なきまでに思い知らされた今回のヒュースデン=ゾルダーだったが、一方でこの「シクロクロス専門家」たちによる総合争いもまた、決して目の離せない展開となってきている。
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