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#194 不都合な真実

リモート会議をちょうど終えたところで玄関の扉がガチャッと開いた。

賑やかな声がした。次女が友達を連れて家にやって来たのだ。今日はクリスマスパーティー。どういういきさつかは知らないが、会場は我が家らしい。

妻がどうしても出社しなくてはいけないという。代わりに在宅ワークを頼まれて、スケジュールを確認して、快諾した。

可愛らしい声がリビングで弾ける。
僕はあらかじめ用意していたお菓子の入った籠と、ジュースをテーブルにセットした。彼女たちの声が一層弾ける。その後きちんと「お邪魔します」と言ってお辞儀をしてくれた。


数年前には考えられなかった光景だ。
毎朝早くに家を出て満員電車に乗り、当たり前のように残業して、深夜に帰宅した。子供たちが起きていれば良い方で、ひどい時には翌朝子供たちが起きるより早く家を出た。

それがどうだ。
今、仕事の合間にクリスマスパーティーの準備をしている(笑)。幸せそうな子供たちの横顔を、思わず写真に収めた。


未曽有の惨事は、明らかに僕たちの生活を変えた。
それは必ずしも悪い側面ばかりではなかったようだ。異常なまでの仕事人間だった過去を炙り出し、本当のワークライフバランスというやつを気付かせた。

在宅ワークが無ければ、こんなシーンを眺めることなくあっという間に親離れされ、子供たちの何も知らないまま老いていくだけだった。想像するだけでぞっとしてしまう。
もう昔の生活には戻れない。僕たちは気付いてしまったのだ。


しかし、
これは社会にとっては不都合な真実かもしれない。

通勤の無駄が省けて生産性は向上するかもしれないが、知らなくても良いことを知ってしまった社会人たちは、日本特有の「がむしゃら」(昔の言葉で言えばモーレツ)を馬鹿馬鹿しいとさえ思うようになり、自分を犠牲にしてまで仕事する人が減った。


そして、

それにはこんなワードも拍車をかける。ハラスメントと、コンプライアンス。

今や管理職は上司と部下の狭間にいるのではなく、ハラスメントとコンプライアンスの危険にさらされ、その板挟みに合っている

管理職は相変わらず忙しい。
「管理」をしっかりとするために出社して残業する。自己犠牲してまで責任を負っているにもかかわらず、ハラスメント撲滅が唯一の目的である人事は”管理職の質向上”を掲げるばかりだ。この結果、人事は次々と研修を課す。

管理職はそれによってまた残業時間を増やしていく。
地獄だ。


しかし責任ある行為を全うすれば、一般的にはそれに見合った報酬が支払われる。そういう意味では管理職のモチベーションは、究極的には金だった。

それなのに・・・今度はその金を国が奪っていく
税金は増えるばかり。頑張って稼いだ金を奪われて、無作為にばら撒かれる。そしてそれは必ずと言っていいほど自分たちには巡ってこない


一体どこにモチベーションが眠っているのだろう。

たとえ所得が減っても所得税も減る。つまりあまり痛くない。それどころか「管理」がなくなれば殺人的な忙しさから解放され、生活が充実する。

つまり、
もう管理職に夢など無い


不都合だけど、これは真実になりつつある。
もう何かが崩れ始めているかもしれない。




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