【迫真エッセイ】転職と苦悩の話⑪
10月。年度の真ん中に華々しく社内転職を果たし、作業着を着ていた僕はスーツ姿で都心のビルに通勤することとなる。
図面を書いていたゴリゴリの技術者からソリューション企画者に。それだけではない。既存商材の営業をやったりもした。
10月に異動して約2か月。街がすっかりクリスマス仕様に変えたころ、僕は2つの異変に気付きだす。
■強い営業
toB、toGの強い世界にはやはり強い営業がいた。ハードビジネスの営業といえば主な仕事はPSIの作成ぐらい。つまり来月どれだけ生産するかを決めているだけだ。そりゃ韓国や中国に負けるわけだ。
「お客様第一!」などと言いながらスペックを上げて売価を下げることしか頭にない。しかもそのスペックはカタログ用で市場(お客様)が求めていないものだったりする。
しかしどうだ。
ソリューションの世界は違う。営業が、お客様の中にグイグイと入りこんでしっかりと営業の仕事をしている。「随契」という言葉を聞いた時は感動した。説明は割愛するが営業活動の中にもしっかりとした戦略があることを僕は初めて知ったのだった。
しかしこの”強い営業”には一方で、絵にかいたような変なやつもたくさんいた。
代表的なのはゴマすり男。権力に媚びへつらって恥ずかしげもなく手を揉みながらヨイショを繰り返す。そんなのテレビドラマの中だけかと思っていたら本当にいたので開いた口が塞がらないほどびっくりした。
それから、そのゴマすり男にいい気分にさせられているパワハラ上司。まだまだハラスメントという言葉がそれほど浸透していない頃だったが、タチの悪い気分屋だ。
飲み会が開かれればゴマすり男がその上司の近くに若手女子社員を配置する。今なら明らかなセクハラ。僕は日本にも「喜び組」があることをこの時初めて知ったのだった。
■弱い僕
一方で自分自身。
とても弱かった。ゴマすり男とパワハラ上司に翻弄されていたわけではない。彼らとは距離を置きながらも、もっと深刻な事態にいた。
今思えばしごく当然なのだが・・・。
意気揚々と新天地に乗り込んだ僕だったが、当然ながら周りは皆僕のことなど知らない。ついこの間まで、例えば重要なリスクを見出した時、関係者各位に『集合』とメールを打てば部長さんまでもが駆け付けてくれた。
それがどうだ。存在感は突如として皆無になった。ゴマが擦れるポジションにいるならまだ良い方かもしれない。
情けなかった。
やる気と、出来ると信じていた自信と、それに対する現実的な空虚感を自分の中で咀嚼してバランスをとることが出来なかった。焦りもあった。プライドが邪魔をした。肝心な営業スキルやシステム設計の基礎知識も経験値もなかった。
オレは何しにここに来たのだろう。
求めていた刺激はあった。毎日毎日、目から鱗が落ちた。ただ、あまりにも鱗が落ちすぎると目が痛い。危うく涙が出てきそうだった。
会社を出て駅まで向かう道で、「オレはこんなもんじゃねぇ。今に見ていろ!」と、明確に誰に向かうでもなく、ひとり気を吐いていた。それは気を吐くというより、そうしながら正気を保っていたと言ってもいい。
転職とは・・・恐ろしい。
あまりにも漠然と、あまりにも鮮やかに自分の武器を捨てて新しい世界に踏み込んでしまった。後悔してももう遅い。
僕はこの後、絵に描いたようにもがく。もがき続けるのである。。。
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続く。この後僕は、もがき続ける。
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