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【迫真エッセイ】転職と苦悩の話⑮

激務だった。

自分の能力の不足分が5割。自分ではどうにもならない状況が5割。脳みそがスカスカで、何かをきっかけに頭が吹っ飛びそうだった。


■カプセルホテル

月1回のペースで実施される両社幹部への報告会は中々にきつかった。こういう場合は資料作成に手間がかかると思われがちだがそれならまだ良い方だ。

とにかく、そもそものプロジェクトの進捗が悪い。多くの人が「あぁあれね」と想像つくものを創り上げるプロジェクトならまだいい。ところがこの仕事はそんな単純なものではなかった。

1か月のほとんどを会議と現場周りで費やし、ようやく資料作成に取り掛かれるのは会議まで残り数日となった頃。内容がおぼつかないので時間が来るまで手が付けられなかったとも言ったほうが正しい。

大プロジェクトにありがちな船頭の多さも健在。当日までに何人もの社内幹部に説明して回る必要がある。そしてその都度、手厳しい指導が入る。

作業時間を捻出するために7時には出社する。起床するのは4時半だ。そのまま終電まで仕事をする。1時間半かけて帰宅する。寝るのはいつも午前2時ぐらいだった。


社内転職を機に大きく変わったのは業務内容だけではなかった。通勤時間もこれまでの片道30分(チャリでも可能)から満員電車の片道1時間半に変化していた。通常ならそれなりに頑張れるのだが激務が続くとこの往復3時間は重過ぎる。

睡眠は2時間ちょっと。一日何本もエナジードリンクを飲んで正気を保っていた。

余談だけど本当に疲れている時エナジードリンクはとんでもなく効く。しかもどうやら相性が合って、全く効くやつとそうでないやつがある。僕はコカ・コーラエナジーと相性が良く眠気を追い払うのに素晴らしい活躍をしてくれた。
amazonで箱買いしていた。この頃はエナジードリンクを購入するために給料を稼いでいたと言っても過言ではない(笑)。(いや笑えない・・・)


睡眠不足は容赦なく僕の精神を貪る。

いよいよ頭がおかしくなりそうだった。僕は生きるために自腹を切る。自分の小遣いで決して安くない新橋のカプセルホテル代を払い、睡眠時間を2時間から5時間に増やして何とか乗り越えていた。

翌朝。ビルの間から垣間見える朝日はとにかく眩しかった。まだ誰も歩いていない都心を昨日と同じ服装で歩きながらも幸せを感じていた。

5時間も寝られた。幸せだった。今考えても、到底常人の感覚ではなかった。


■奇跡

オレは今何のために何をしているのだろう。家族と自分の財布を犠牲にして何に向かっているのか、わからなくなっていた。

しかし、

まっとうな思考能力などとっくに枯れていた。悩んでいる時間など無く、次の会議はやって来る。惰性でフロアを歩いていた。動き出し(初速)だけ頑張ればあとは慣性力で前に進めることを僕は知っていた。

どこまでもエンジニアだな、と思った。物理を学んできたおかげで、僕は激務と睡眠不足の中にあっても前に進むことが出来た。


それでももう限界だった。4時半に起きると小刻みに震えたりした。頭がスッカスカで思考回路など停止寸前なのに、気を抜くとパンと弾けて頭の中身が吹っ飛びそうだった。本当にもう駄目だと思った。

その時、奇跡が起きた。

少し不謹慎かもしれないが当時の感覚を赤裸々に綴りたい。僕を地獄のような勤務状況から救ったのは他でもない、コ口ナ禍である


「緊急事態宣言」がギリギリのところで僕を救った。まさに奇跡のようなタイミングで信じられないことが起こった。

突如としてやって来た在宅ワークは、僕にとって奇跡の逆転カードだった。




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続く。

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