【迫真エッセイ】転職と苦悩の話⑲
急遽会社を休むことになって1週間後、僕は部長と面談していた。
この時の部長はとても聞き上手な方で、頭ごなしに「どうなってんだ!」と詰めることなく、僕の身の回りに起きた事実を淡々と聞き取ってくれた。
僕がプロジェクトにはもう戻れないことを悟ってくれ(腹痛は収まったが片道1時間半の電車通勤はまだかなり苦しかった)、休職という選択肢も用意してくれていたようだった。
しかし僕の中では自分のこれまでとこれからを考え続け、ある結論に辿り着いてた。それは、
転職してからずっと心に引っかかっていたこと。僕は思い切って上司に想いを告げる。
「開発がしたいです。一から。しっかりと。」
■リスタート
工学部を出てハード設計者としてそれなりの経験を積み、事業の頭打ちを受けてソリューション事業を謳う部門へ異動した。
異動してしばらくは企画や営業のような活動をしてきたが、やはりベースとなるところには「システム開発」という技術的な柱がしっかりとあった。僕はエンジニアの出身でありながらこの基本的な部分が疎かなまま、PMPというプロジェクトマネジメントの資格を取りリーダーとして振る舞っていた。
しかし、だ。
いくら資格を保有しているとはいえ、技術的な知見が無ければまともな業務は出来ない。それはマネジメントだけでなく、企画や営業を行う際にも十分に言えることだった。
開発がしたい。
小さな規模でもいい。基礎から技術を知りたい。開発工程を知りたい。そして何より、勘所を得たい。
まさに心の叫びだった。スラムダンクの三井君の「バスケがしたいです」と同じくらいの本心、そして熱量を持っていた。
■感謝
もう感謝しかない。
部長は僕のために、新たなプロジェクトへの参画を認めてくれた。助っ人ベテラン技術者ではない。一人の新人技術者として。
僕がこれまで否定的に見ていた、”使えないおっさん”に僕自身が成り下がってしまった瞬間だった(汗)。
しかし、後悔は無い。
年下のプロジェクトリーダーと、入社数年目の若手に囲まれて僕は改めて開発にどっぷりと携わる環境に馴染むのは必ずしも簡単ではなかった。入社して十数年して、また振出しに戻った虚しさはあった。でも、とてもありがたいことだった。
プロジェクトは要件定義を終え、基本設計に入るところだった。規模はそこそこの大きさだったが、要件が明確でわかりやすいプロジェクトだった。
かつて「APIって何ですか?」と聞いていた一人の男が、いよいよ本格的にその世界に入り込むこととなったのである。
まさに生まれ変わった瞬間だった。
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続く。
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