見出し画像

【迫真エッセイ】転職と苦悩の話⑫

慣れないスーツ姿も毎日着ていればそれなりに馴染んでくるというもの。

この頃の僕はネクタイ姿も板に付き、大手町やら品川やらの普段なかなか中には入ることは出来ないであろうビルディングを出入りするようになっていた。

スマホを肩と耳の間に挟み、メモを取りながら次のアポへ向かう。学生の頃見ていたドラマのようなサラリーマンだ。革靴もタイトなスーツも毎日着ていれば体にフィットしてくる。さわやかに意気揚々とオフィス街を闊歩している・・・かと言えばそんなことは全く無い。

頭の中ではいつも知識と経験の少なさを嘆いていた。圧倒的に情報技術(いわゆるIT)に弱いのだ。

 

■エンジニアという職種

もちろん本を買い漁って勉強したりもした。研修も受けた。しかし、(地頭が悪いのか)いまいちピンとこない。

特にIT関連の知識はその最たるもの。”ニュアンス”で語っている人が多いためか用語の意味が核心を突かない。一方で本やネットの情報は逆に難解すぎて素人には説明になっていない。

僕は入社してすぐのことを想い出していた。ハード設計者としての駆け出しのころ。思えばあの時も今と変わらず、もがき、苦しんでいた。では何が違うのか?

答えは一つ。自分でやったかどうか、だ。


開発をして、自分で何かを手掛けて、身をもって経験しなくては理解はできない。いわゆる勘所というやつの醸成はエンジニアという職種にしかできないのではないか。当たり前かもしれないがヒシヒシと、改めてそう感じるようになっていた。

服屋で新しいネクタイを選びながら、エンジニアという職種に想いを馳せる。しかし、ここでもプライドが邪魔をする。

当時の僕に新入社員の頃のような、怖いもの知らずのアクティブさは無かった。プライドなのか?いや、弱かった。恥をかくのを恐れていたに違いない。新人のように振る舞って一から教えてもらう勇気は、当時の僕には無かったのだ。

 

■リーダーがいない

IT技術に対してものすごい苦手意識が芽生えてしまった僕であったが、一方で自分が優れている部分にも気付いていた。

それはビジネススキルである。

こう言うととても高尚に聞こえるが決してそんなことは無い。社会人が仕事を進めるうえで必要な事。言い換えるとQCDを守るためのテクニック、みたいなもの。

どうやら僕はプロジェクトリーダーの経験を通じて、(例えば)スケジュールの立て方、管理の仕方、打ち合わせの準備、ファシリテート、議事録の書き方と終わってからのtodoの刈り取りまで基本的なお作法については十分に身に付けていたようだった。

転職した部門は営業力こそとても強かったがそれについていくべき技術部門が少し弱かった。急激に伸びてきたIT業界に何とかついてきている状態なのか、僕の中で定義する圧倒的なリーダーが数えるほどしかいないように見えた。

不思議な気分だった。僕よりよっぽど技術力は高いのに、お作法があまりよろしくない。スイングフォームが教科書と全く違うのにヒットを量産するバッターを見ているような。

僕はこう思うようになる。

コレ(マネージャーとしての経験)が僕の活きる道なのではないか。こうして僕は新たな舵を切る決意をする。スーツを着てオフィス街を歩き回るようになって2年ほど経った時だった。僕は再び技術の敷居をまたぐことになる。


思えばこれが地獄の入り口だったのだが・・・。

 

 

 

ーーーーー
続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?