見出し画像

【ブックレビュー】そっと背中を押してくれる珠玉の言葉が詰まる『本が紡いだ五つの奇跡』(森沢明夫・著)

 私は、本を読むのが好きだ。「読書が好き」と言うと、話題の一つとして「好きな作家、よく読む作家は?」と聞かれる。本好きの方にとっては身に覚えのある経験ではないだろうか。

 そう聞かれると、私が真っ先に名前をあげるのが、森沢明夫(もりさわあきお)さんだ。

 『虹の岬の喫茶店』など映画化された作品も多数。森沢さんの作品を読んだ方や、映画を見た方も多いかもしれない。

 作品の主人公は、子どもから大人まで様々。仕事、家庭、病気……それぞれの迷いの中にいたり、中には絶望を感じている人もいる。

 主人公たちが人との出会いや、出来事からの気づきで、光を見いだしていくまでを温かく寄り添い、丁寧に描いた作品が多い。
ところどころに珠玉の言葉が詰まった、宝物のような本だと思う。

 私自身、ちょっと疲れていて元気がないとき、何をやってもうまくいかないときなどに、森沢さんの言葉で背中を押されたことが多い。今回読んだ『本が紡いだ五つの奇跡』もそうだった。

『本が紡いだ五つの奇跡』(森沢明夫・著 講談社)

この本は、5つの連作短編が一つのストーリーになっている。一冊の本がきっかけで起こる変化が、編集者→小説家→ブックデザイナー→書店員→読者の視点で書かれていく。

話は、業績を上げられずにいる編集者が、失意のどん底にいるときに救ってくれた本を書いた小説家に小説を依頼するところから始まる。
その小説家も、家庭のトラブルを抱えていたり、この本のデザインを頼まれたデザイナーも病を抱えるなど、5人の主人公たちはそれぞれ抱えているものがある。
だが、小説がきっかけで、それぞれが光を見出していくまでが丁寧にえがかれていて、そっと温かく背中を押してくれるような言葉があふれている。

私が印象に残った言葉は、以下の3つだ。

「わたしの人生は雨宿りをする場所じゃない。土砂降りの中に飛び込んで、ずぶぬれを楽しみながら、思い切り遊ぶ場所なんだよ。」

昔から「挑戦したい!」と思うのに、「失敗が怖い」「できなかったら人に迷惑をかけてしまう」などの理由でブレーキをかけてしまうことが多かった。
「ずぶぬれを楽しみながら、思いっきり遊ぶ場所」と言う言葉に「挑戦してもがくことで楽しみたい」と思うようになった。

「人生の選択肢には正解なんてないけど、でもいつか、その選択が正解だったって、胸を張れるように生きること。そういう生き方こそが、きっと正解なんだってさ。」

人生の選択、今思うと後悔することも多い。
2つ進みたい道があったが、決められずに、タイムリミットがきて決めた進学先など……。時々「もし違う選択をしていたら……」と思うこともある。
だから、「選んだものが正解」と言えるようにしたい。
精一杯、目の前のことに取り組んでいこう。

いつでも、何があっても君は一人じゃない。たとえ、大切な人と会えなくなる日が来たとしても、心はちゃんと寄り添っているし、『想い』は君と繋がっている。」

ここ数年で、父方・母方の祖母と、父方の祖父が相次いで亡くなった。自分を受け止めてくれた人たちが短期間でこの世からいなくなった。一人になると孤独感を感じることがあった。
この言葉を目にしたときに、亡き祖父母に言われているような、見えないところで支えられているような気がした。そして、クヨクヨするのはやめようと思った。

きっと、それぞれに心に残る言葉は様々なはず。

今、何らかの壁が立ちはだかっている人、背中を押してほしい人……多くの人に読んでいただきたい一冊である。





この記事が参加している募集

#読書感想文

189,141件