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【フードエッセイ】冬を惜しみながら食べる「霜ばしら」

今、季節は冬と春の変わり目だ。
仙台は晴れているものの、強風が吹き荒れている。
日差しは温かいものの吹く風はまだ冷たい。

そんな時、過ぎた冬を思い出すような食体験をした。

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雪は積もっていないもののピリッとした寒さの冬の朝、土の上を歩くとシャリシャリという感触を感じることがある。霜柱を踏みしめた時の音だ。
この小気味よい音が楽しく、辛い寒さを一瞬忘れさせてくれる。

そんな霜柱を表現したかのような銘菓が仙台にある。

その名も「霜ばしら」。仙台市内の老舗「九重本舗 玉澤」による、10月から翌年4月までの冬季限定商品だ。
飴を霜柱に見立てたものだ。

蓋を開けると、さらさらとしたたっぷりの白いらくがん粉が敷き詰められている。繊細な飴を守るためだという。
まるで雪のように見える。

食べる時は「霜ばしら」が見えるまでにらくがん粉をうつす。

らくがん粉を取り出すと現れる「霜ばしら」。
割らないように、壊れないようにそっと引き出すと……

縦の線がまっすぐに揃った飴が出てきた。
光沢があり、白銀の色味が霜柱を思わせる。

出てきた飴を口に運び、噛んでみる。
シャリシャリとした歯ごたえで、霜柱を踏みしめた情景が思い浮かんだ。

また、2本目はあえて噛まずに舐めてみた。
舌の上ですっと溶けていく。
まるで口に含んだ雪が溶けるかのようだった。

そして口の中にほのかな甘みが広がる。その甘さが懐かしい気持ちを呼び起こしたのか、子どもの頃を思い出した。

あの頃、学校に行くときに霜柱の音が楽しくて、夢中になって踏みしめたっけなぁ……。真っ白な雪がどんな味か気になって食べてみたこともある。

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仙台の人であれば多分、多くの人が知っているであろう銘菓「霜ばしら」。
全国的にも人気があるようだ。私が知ったきっかけはある有名人の「おすすめのお取り寄せ」に掲載されていたことだった。

そしてなかなか手に入らない貴重なお菓子でもある。
全工程を職人さんが手作りしていることを耳にしたことがあるので、生産量も限られているのだろう。

私は仙台に長く住んでいるものの、販売元の店舗では出会ったことがなかった。

しかし昨日、仙台駅近くにある地元名産品のアンテナショップで見つけた。
「霜ばしら」のコーナーを眺めていると店員さんに声をかけられた。

「霜ばしら、貴重ですよ!入荷1回あたり48個と決まってるんですよ。今日発注をかけたけど、いつ入ってくるかなぁ……もうすぐシーズン終わりだしねぇ」

その言葉に思わず「買いますっ!」と即答したのは言うまでもない。

けれど、買ってよかった。出会えてよかった。
冬の終わりどころか、早春の季節の出会いになったが。

 次はいつ出会えるかがわからない「霜ばしら」。冬を惜しみながら、一本一本味わって食べていこうと思う。


◆参考

「九重本舗玉澤」ホームページより「霜ばしら」




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