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ある朝!夢の研究家になっちゃった!

「私、何か〝文字〟をもらったかしら?」

朝、目を覚まして…   ベッドのなかにうつ伏せになったままで…   すやすや姫は近くにいたお父さんに、大きな声できいたのです。

すやすや姫は、うつ伏せで寝ていて、すっぽりと!ふとんまでかぶっていますし… まだ、はっきり目が覚めていないので、大きな声を出すのは…  なかなか大変なことです。

すやすや姫は、声をふり絞りました…
それで、ちょっとしゃがれた低い声になってしまいましたが…
それでも大きな声で、お父さんに話しかけました.。

「私、何か〝文字〟をもらったかしら?」

「文字?」

お父さんの声は、朝食のお味噌汁の湯気みたいに、ふわふわ眠そうな小さな声です。

すやすや姫のお父さんは、たしか… 「なんとか博士」なのです。だとすると、ピッピッと、最先端のAIみたいな知性がきらめいていそうですが、まったく最新ではないどころか、とてもとても古い時代の研究ばかりしているので、すやすや姫はお父さんの仕事が、本当に役に立つのか、ちょっとばかり心配になったりします。なにしろ昔話よりも、もっと昔のことを調べたところで、もう誰にもわからないことばかりだと…  お父さんも言っているのです。絶対にまちがっているとか、絶対に正しいとか…誰にもわからない…
つまり、わからないま… うやむやを研究をしているみたいです。

なので… なのかどうか… すやすや姫にはわかりませんが、お父さんの声は、いつもふわふわしていて、口癖は「かもしれませんよね。」とか…
「とも想えますね。」とか… 「もし、そうだとしたら…ねぇ?」とか…  いつも、そんなものになるわけで… きょうはいつもよりもっと!フワフワの声のようにきこえます。 

すやすや姫はちょっとイライラしてきました。

「私、何か〝文字〟をもらったかしら?」               

すやすや姫は、叫ぶような大きな声でお父さんにききますが…

「文字って?」
お父さんの声は、まだまだ、ふわふわただよっていて、答えてくれそうもありません。

それで、すやすや姫はちょっとだけ、お布団から、顔を出して叫びました。

「色紙… 色紙の上に、誰かが墨で描いてくれた〝文字〟がある色紙を私はもらったみたいなの?」

「色紙? もらってないだろうね… もしプレゼントだとしたらねぇ…」
お父さんは、ふわふわ頭を横にふり、すやすや姫のベッドの横に座ってクスッと笑いました。
「子どもに、墨の〝文字〟を描いた色紙っていうのは、ちょっと不思議に想えるね。」

すやすや姫は、6月6日にちょうど6歳になったばかりです。そりゃそうかもって…、すやすや姫も思いました。

「だとすると、やっぱり夢なんだ…」

お父さんは、大きくうなずいただけですが、すやすや姫はいつものお父さんみたいに、ふわふわの声でいいました。

「夢だとも、想えますねぇ…」

すやすや姫は、ベッドの上でうつ伏せのまま、くるくるっと、お父さんの座っているベッドの端っこまで、回転していって、お父さんに言いました。

「やっぱり夢かなぁ… もらった〝文字〟が、色紙から浮き上がってきて、びゅうう~んと回って、それから、また、ぴたっと色紙にくっついたから、びっくりしたんだよ」

「それはすごい夢だねぇ…どんな〝文字〟?」

そう言えば、すやすや姫はそんなにたくさんの漢字を知っているわけではありませんが、その文字の形や、墨で描かれた美しい曲線が空中をびゅう〜んと、回転していたのは、ほんとうに素敵な気分でした。そう、それはサーカスの曲芸に驚いた時の感じと似ているかもしれません。

「え~とぉ~、どんな文字かっていうと…う~ん…わかんないけど…」
すやすや姫は、空中で回転していた文字が色紙にくっついた瞬間を想い出していました。
「花…花っていう文字!」

すやすや姫は、その〝文字〟になったつもりで、ベッドのうえで回転してみました。〝文字〟の形はビュンビュンいきおいよく変わっていくので、どんな形なのか、はっきりとはわからないのですが、なんだか…花のような香りがするし、花びらのようなやわらかさです!

ふっと!すやすや姫は、色紙にかっこよく舞い降りていきたくなりました。そこで、空中から、四角い色紙を目指して、ダイビングしたのですが…

すると、はりつくはずの色紙が、いつのまにか、ベッドになっていることに気がつきました。

「えーっ!回転して、ベッドにはりついたのは〝私〟なのかな?』

実は、すやすや姫はとてつもなく!寝ぞうが悪いのです。枕のうえに、朝まで頭が乗っていたことなんて、ありませんが、ぐるぐる回って、頭の位置がもとに戻っていたことはあります。

つまり、一晩のうちに、どんなふうに動くのか、まったくわからないのですが、たしかに今朝は、なぜか?空中でくるくる回りながら、ひらりとベッドにはりつこうと…思ったことを思い出したのです。

「私が〝文字〟…私が〝花〟で、ベッドが色紙なんだ…」
すやすや姫は、ベッドから出て、ふっと外を見ました。

『いったいどこから戻ってきたのかなあ… 」

外をみると、白い雲の上に、アジサイのような色合いで浮かんでいる富士山が見えていました。空にそっと咲いた花のようです。

「ここは日本だね。富士山が見えるもの。私はたった6歳だし…」
すやすや姫がぶつぶつ言っていると、お父さんがおどけた調子で言いました。

「朝ごはんができました。どうぞお召し上がりください。」

そこで、すやすや姫は、着替えをして、髪をとかしたり、顔を洗ったり…   いつものなんでもない朝がはじまったのですが、すやすや姫のこころのなかには、いつまでも、〝文字〟が回転して、空中から、色紙にはりついた様子が、アニメーションのように残っていました。両手が吸い込まれていくような感じとか、空中をらせん階段みたいに回っている感じもあるのです。

キッチンで、モズク入りのオムレツをお皿にのせているお父さんに、すやすや姫は言いました。

「私はたった6歳だけど、とても不思議な夢だよね!ずっとずっと!ずーっと覚えておけたらいいのに…」

お父さんは、モズク入りのオムレツを味見してから、にっこりして言いました。

「それじゃあ、夢のなかにいる時に、夢の世界をよく見て、よく耳をすまして、そこで何が起きているのか… こっそりレポーターしちゃうって、いうのはどうだろう?  うん、なかなかおもしろそうだ…」

「どんなふうに?」

すやすや姫がわからないような顔をしていると、お父さんはレポーターがマイクに向かってしゃべるように、フライ返しを口の前にもってきました。

「こんなふうに…ふっ・ふっ・ふっ…お父さんも、いろんなところに研究に行く時には、新しい情報や気づいたことをレポーターしておくんだ… 写真がとれない時も、ICレコーダーにしゃべっておけば、後でゆっくり、しっかり思い出して、記録できるからね。」

安心したら、急に、すやすや姫はお腹がすいていることに気がつきました。お父さんが用意してくれた、モズク入りのオムレツとお味噌汁はとってもいい匂いです。

「卵焼き、美味しいね…」
すやすや姫は、テーブルの上にあるスプーンをICレコーダーのように手にとって、レポートしてみました。

「窓からは、富士山がみえます。ここは2021年のオリンピックがもうすぐの日本です。フワフワの髪の毛のお父さんが、モズク入りの卵焼きをつくりました。いい匂いです。お味噌汁のなかには、お豆腐とワカメと、麩が入っています… お父さんは考古学の先生で、すやすや姫という6歳の女の子を育てるシングルファザーです。さみしがりやではありません。ひとりでも楽しくて、お料理と温泉が好きなんだって… 」

お父さんは、何度もうなずいて、にっこりして、言いました。
「マチガイがあります。卵焼きではなくて、オムレツです。それから、予測や感想もあるといいよね。えーっ、明日の朝ごはんは、きっと温泉卵と納豆でしょう…なんてぇ… それにしてもすやすや姫もなかなかいいレポーターだね!」

朝ごはんの後で、お父さんは本棚の隅っこに置いてある箱のなかから、ICレコーダーを引っ張り出して、すやすや姫に使い方を教えてくれました。

「すやすや姫は、これから… 最年少の夢の研究者になるんだね。おもしろいなぁ…」

お父さんは、愉快でたまらないっていう感じで笑っていますが、すやすや姫はとてもまじめにレコーダーの使い方を習いました。

こうして、すやすや姫の夢物語が、皆さんにレポートされることになったのでした。

すやすや姫は、お父さんに、〝夢の研究者〟って言われたことが嬉しくて、胸がドキドキワクワクしてきました。


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