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忘れる前の独り言(1852字)

私はよく独り言を言う。
無意識のときもあれば、意図して言うときもある。
私が意図的に独り言を言うときは大抵、「現実逃避をしているとき」か「無性に恥ずかしいのを誤魔化したいとき」か「頭を空にしたいとき」。


うーむ、勉強に集中できない。
よし、じゃあ今目の前に人がいると仮定して、ラーメンズのコントの面白さをプレゼンしてみよう。
「まず私のラーメンズとの出会いのコント、採集を見ていただきたい。怖いのがお好きなら、部屋を暗くして静かな夜に観るのをおすすめしますよ。このネタの面白いポイントはこうこうこうで…」
身振りも加えて、いない誰かにPCの画面を向けて指さしてみたりする。
この時、決して自分を客観視しないこと。我に返らないこと。
「このシーンの表現なんですがね、いろんな解釈がなされている中でも私はこの見方が好きなんですよ、あとここはね、一見こうかと思わせて、実はこうなんですよ。あとこの場面はね…」
浮かぶ言葉を全部声にする。
ひとしきり喋ると、何も出てこなくなる。
ここで初めて現実に帰ってくる。
熱量を吐き切った肺に新鮮な空気を入れ、一息つく。
この時点で独りプレゼン前の勉強内容だの曖昧な不安だのは良くも悪くも薄ら忘れ始めている。
そうして現実から逃げ、気持ちをリセットしてみたりする。


歩く、歩く。一人、商店街を歩く。
今日は差し入れの菓子折りを買うのと、スキンケアの買い足しと、あとは雑貨屋に寄り道して……

ツルっ。
滑って躓いた。何もない真っ平らなところで。
コケてこそないし、誰も見ていない。
平然とまた歩きだすが、無性ーに恥ずかしい。
「誰も見てないよー。大丈夫だよー。ケガしてないし大丈夫だよー。」
全肯定天使を脳内に降臨させる。そして発語はせず小さな口パクで勝手に慰めを喋らせる。マスクの下でもごもごと。
「かわいっ!おてんば!つまづいちゃうなんてお茶目!」
イマジナリー天使をしょっちゅう降ろしていることの方が本来恥ずかしいのだが、何分独りで完結しているので考えないことにしている。


布団に入って、アラームをセットして、寝る準備は万端。
すぐにでも寝られそうなぐらい身体は疲れている。にもかかわらず、直前まで浴びたブルーライトが私を寝かせない。
よし、独り反省会開始。
今日の設定は…昭和気質な社長。
「まず、今日は何をやった?ほう、今日は朝10時に起きて?おい10時は遅いだろう、もうちょっと早く起きられるよう努力しないか。どうせ昨日寝るのが遅かったんだろう。それは昨日の話なので本日の反省会には持ち込まない方が良いかと、だぁ?生意気言うんじゃない!」
怒らせると面倒そうな社長を演じる。もちろん極小声で。
ああ、平気でハラスメントしてきそうだ。
「それで、10時に起きて何をしたんだ。アニメを見ながらご飯を食べて、昼から授業を受けに行ったと。授業はちゃんと受けたんだろうな。おお、一度も居眠りしなかったとな。それはよくやった、そういう些細な努力の積み重ねなんだからな。今後も頼むぞ。」
でもそういう頑固な人に褒められるとちょっと嬉しいよね。
呑気にアニメ見てたのは見過ごしてくれるんだ。
「それで…なに!?夕食を家族の分まで作っただぁ!?そんな成果はすぐにでも私に報告すべきことだろうが!!肉じゃがの?味付けが過去一美味しくできただって!?…貴方は素晴らしい人材だ、昇進を検討させていただくよ」
やったー!!出世街道まっしぐらじゃないかぁ!!

うんうん、今日もなんだかんだ頑張ったなぁ私。
程よく表情筋と脳が疲れて、自然と目を閉じる。
気づくと、朝になっている。


こういう独り言ばかりしているうちに、一人遊びが上手くなって”おひとりさま”への抵抗感が少なくなってきた。自分の世界にどこででも逃げられるようになった。本当はもっと他人に心を開いて、素の自分をさらけ出して、他人を愛することもすべきだろう。解っている。でも専ら他人を嫌わず好かず、自分の中に生きる心地よさに慣れてしまった今の私には少しばかり困難なのだ。

noteには、その独り言の中で残しておきたくなった言葉を書き留めている。
折角紡いだ言葉が、真の意味で誰にも届かず忘れ去られていくのは幾分勿体なく感じてしまうから。
でもここに誰かが読みに来ても来なくても、きっと未来の私は読みに戻ってくる。そのために書いていると言っても過言ではない。

いつだってここには、しょうもない独り言ばかり言って、下手なりに精一杯生きている孤独な私が残した言葉がある。それが少し誇らしくなるときもある。さあ、今日も今日とて。

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