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【読書録】スプートニクの恋人 / 村上春樹

2022年4月6日 読了

ここ最近、村上春樹が翻訳した作品を立て続けに読んでいたので、本人の小説もひさしぶりに読みたいなあと思って、未読のこの本をなんとなく手に取った。なんとなく選んだもののとても良い小説だった。

22歳で作家志望のパンクな女子大生(大学中退)が、アラフォーのバリバリキャリアウーマンな女性に恋をするという、あらすじだけ見たら漫画のようなストーリーが村上春樹お馴染みの「僕」からの視点で語られていく。
やや特殊な恋愛漫画みたいなあらすじだが、中盤以降は村上春樹らしく精神的な「あちら側」の世界が描かれる。

村上春樹が「こちら側」と「あちら側」を描いた長編は数多くあるが、他の長編作品が壮大で長尺なのに対し、この作品は一冊でコンパクトにまとめられており、読みやすい。
内容はやはり難解ではあるものの、物語を理屈で言葉にしようとすると難しいだけで、描かれている概念はわかりやすくスッと入ってきて馴染むような感覚を得られる。この、難しい概念を作品に落とし込む文章感覚において村上春樹はやはり天才だと改めて実感した。

物語を孤独な人工衛星「スプートニク」に例え、主人公の「僕」とヒロインの「すみれ」、そして「ミュウ」という女性それぞれの”軌道”が、不思議な感覚の恋愛小説として紡がれる。
物語としては明確に説明が不足していて、終わり方も唐突なのだが、それがかえって「僕」という存在の第三者性を強調しているし、恐らくこういうことなのだろうという補完もできるので、説明不足は気にならないどころかこの作品の魅力でもあると感じた。

難解ながらも孤独や寂しさに寄り添った物語で、印象に残るシーンやグッとくる文章が至る所に散りばめられている。村上春樹の作品はかなり多く読んでいるが、個人的にはその中でも特に好きな、特別な小説となった。


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