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【読書日記】ゴールデンボーイ ─恐怖の四季 春夏編 / スティーヴン・キング

2023年4月4日 読了。

スティーヴン・キングが四季それぞれの中編を描いた作品集『恐怖の四季』のうち、春と夏の2作をまとめた文庫本がこの『ゴールデンボーイ ー恐怖の四季 春夏編』。この本には、春編として映画『ショーシャンクの空に』の原作である『刑務所のリタ・ヘイワース』と、夏編として『ゴールデンボーイ』という中編が収録されている。

『刑務所のリタ・ヘイワース』があまりにも素晴らしく、自分が映画を観たこともあったので、この本全体の感想を書く前に『刑務所のリタ・ヘイワース』のみの感想を別でnoteにまとめさせていただいていた。

ちなみに秋冬編の感想はこちら。何度でも言うが、「ショーシャンクの空に」と「スタンドバイミー」が同じ作品集の一編であることは意外と知られていない凄い事実で、明日から友達に使えるトリビアだと思う。

夏編として一緒に収録されている『ゴールデンボーイ』も映画化されているが、知名度はそんなに高くない印象がある。

しかし、これがまたとんでもない話だった。
改めて、いかにこの『恐怖の四季』という4編の作品集が怪物作かを知ることになった。
『スタンドバイミー』『ショーシャンクの空に』と同時にこんなやばい作品を発表している事実、どう考えても受け入れ難い。
しかもこの『ゴールデンボーイ』は、あの有名な長編『シャイニング』を脱稿してから2週間で「余力で」書き上げたんだとか。は???

『スタンド・バイ・ミー』やショーシャンク原作『刑務所のリタ・ヘイワース』はスティーヴン・キングの「ホラー」のイメージからはかけ離れた、青春や希望を描いた内容だが、この『ゴールデンボーイ』はまさにイメージ通りのスティーヴンキング。人間の狂気による、血で血を洗う殺戮のサイコホラーだ。
しかし話がとんでもなく面白く、途中からは続きが気になって仕方なかった。お話を作るのが本当に上手い作家なのだと実感する。

ナチの強制収容所でかつて司令官をしていた老人が、その残酷な過去を捨てて身元を偽って隠居していたが、そこに13歳の金髪の少年が現れて、正体を暴かれてしまう、というところから物語が始まる。

しかし少年の目的は老人を摘発することでも脅迫することでもなく、ただ「どんな残虐行為をしてきたか聞かせてほしい」というものだった。残虐な行為に興味津々な少年は、老人から当時の話を無理やり聞き出していくうちに、好奇心を超えて内なる狂気が芽生えていくが、過去を忘れ平穏に暮らすことを望んでいた老人も次第に邪悪さを取り戻していく。気づけば少年もその狂気ゆえの弱みを握られ、二人は憎み合いながらも秘密を共有する奇妙な共犯関係を続けることになる。

老人はかつての狂気を取り戻し、少年は経験したことのない狂気に染まっていく。憎み合い、決して相入れない二人が同じように邪悪の底に堕ちていく様子がとても生々しい。秘密に秘密が上塗りされてどんどん後戻りできなくなっていく、そのゾワゾワする緊張感がたまらない。

少年と老人がお互いを騙し合いながらも協力してその周囲の人間を騙していく展開は、緻密な心理戦としての面白さも含んでいて、どうやったらこんなストーリーを2週間で書けるのか意味がわからんほど完成度が高い。

少年の邪悪な狂気はとどまることを知らず、クライマックスに向かうにつれてもうページを捲るのが怖いというほどハラハラした。
そして行き着く結末も凄まじかった……。

後から調べてみるとこの作品は映画化にあまり恵まれていないようで、原作ファンからは映画は酷評されている様子(知名度が低いのもそのせいか)。
映画化もあまり成功せず、「スタンドバイミー」や「ショーシャンクの空に」の陰に隠れてしまっているが、この話も全く引けを取らないすさまじい一編だ。

この一編だけでもすごいのに、同じレベルの怪物作が4編おなじ一冊に入っているのも凄いし、それぞれタイプが全く違う4編なのも凄すぎて意味が分からない。

スティーヴン・キングというバケモノ作家の描く作品を他にももっと読んでみようと思った。
何かおすすめなどあれば、教えてください。


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