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【読書日記】「ショーシャンクの空に」原作『刑務所のリタ・ヘイワース』を読んで

スティーヴン・キングの『ゴールデン・ボーイ -恐怖の四季 春夏編』を読んだ。春夏秋冬それぞれの中編小説からなる作品集『恐怖の四季』の春夏編にあたる文庫で、秋冬編は『スタンド・バイ・ミー』という副題を冠し、映画が有名な同名作品を収録している。本来の順番としては春夏編が先なのだが、日本では『スタンド・バイ・ミー』の映画公開に合わせて秋冬編が先に文庫化されていて、自分も秋冬編を先に読んでいた。

春編は『刑務所のリタ・ヘイワース』、夏編はこの本の副題になっている『ゴールデン・ボーイ』で、どちらも実写映画化されている。『刑務所のリタ・ヘイワース』はかの有名な映画『ショーシャンクの空に』の原作である。
「スタンドバイミー」と「ショーシャンクの空に」という有名映画2つの原作が同じ作品に収録されているというのは知らない人も多いのではないか。自分も知らなかったのでびっくりした。

この春夏編を読んだ一冊の感想をnoteにまとめようと思ったのだが、『刑務所のリタ・ヘイワース』と『ゴールデン・ボーイ』それぞれに書きたいことが多すぎるので、それぞれ感想を分けて記事にすることにした。

「ショーシャンクの空に」は自分も映画を観たことがある。映画もとても面白い作品だったが、原作であるこの『刑務所のリタ・ヘイワース』を読んで、個人的には映画よりも遥かに深い感動を味わった。

映画と原作で内容が全然違うのかと言われるとそんなことはない。確かにラストシーンは異なるものの、方向性に大きな違いはない。
映画では白い砂浜・青い海をバックに2人が再会するラストシーンが印象的だが、原作はレッド(映画のモーガン・フリーマン)がアンディーに会いに行く決意をするところで終わり、再会シーンは無い。
大海原での再会シーンを追加するのは映像作品として良い改変だと思うし、そのほかにも映画オリジナルのシーンには良いものが多い(老囚人が出所後に自殺してしまうエピソードは映画でかなり強烈だっただけに原作にほぼ無いのは驚いた、刑務所内にレコードを流すシーンも原作には全く無い)。
映画が原作に比べて劣っているということは全く無く、むしろ原作を読んだことでとても良い映像化がされた作品であることがわかった。

それでも自分は映画よりも原作の方が圧倒的に感動したわけだが、それはより原作が「希望」というテーマを徹頭徹尾つらぬいた内容だったからだ。

映画と原作の最も大きな違いは「主人公が違う」ことだ。
映画では、冤罪でムショに入れられてしまう銀行員・アンディーを主人公にその脱走劇が描かれるが、原作では徹底してレッドを語り手として、レッドの手記として物語が描かれる。映画でもレッドの語りが入る場面はあるものの、徹頭徹尾レッドの視点となるだけで物語の印象は映画とかなり違う。

アンディーが刑務所を脱走したあとの計画も映画と原作では大きく異なる。映画では、所長が不正をするためにアンディーに刑務所内で作り上げさせた偽の名義を、アンディーが脱獄後に利用するというものだが、原作ではアンディーが起訴される前に既に親友に作ってもらっていた偽の名義を使うため、バクストンの牧草地にある黒曜石の下に隠してほしいと親友に頼んだ金庫の鍵を脱走後に見つけに行く、というもの。
脱走を実行する頃にはその親友も亡くなっているし、その石が何年もその場に残り続けている可能性は低い。それでもたった一つ、その「希望」を信じての脱走劇となっている。

映画では確かアンディーがレッドに伝言を残していったと思うけど、原作ではレッドがアンディーの成功を確かめるために"自分の意志で"その黒曜石の場所に向かう。するとそこには……というラストシーン。映画の方がストーリーとして現実味はあるものの、原作の方が「奇跡的な希望」を求める物語としてより感動的だった。

アンディーの脱獄によって完結したと思われた手記に、「まさかこの物語に続きを書き足すことになるとは思わなかった」という書き出しで描かれるこのラストシーンのエピローグが本当に最高。レッドがアンディーの希望を追いかけ、「それが俺の希望だ。」の一文で幕を閉じるラスト。痺れすぎて、読み終わった一日中そのラストを反芻しては思い出し泣きしそうになるほど感動してしまった。

ここまで感動させられたのは映画とのプロットの違いだけではなく、当然スティーヴン・キングの文章力の高さが一役も二役も買っている。レッドという語り手の、少し荒くれた文体、読者に問いかけるような手記にひたすら没入させられる。物語の構築力、そして文章力。スティーヴン・キングという人物の恐ろしさを知った。

しかし本当に彼の恐ろしさを知るのはこの後に続く『ゴールデン・ボーイ』を読んでからとなるが、それはまたの機会に。


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