見出し画像

【読書日記】スタンド・バイ・ミー ─恐怖の四季 秋冬編 / スティーヴン・キング

2023年3月21日読了。

かの有名な映画『スタンド・バイ・ミー』の原作が収録された一冊。この本は本来『恐怖の四季』という春夏秋冬それぞれの季節からなる中編作品集で、そのうち秋冬の2篇をまとめた文庫版として日本で発売されたのが、この『スタンド・バイ・ミー』とのこと。
本来の順番としては春夏が先だけど、当時映画スタンドバイミーが日本で公開されたのをきっかけに、秋冬編から先に日本で原作が文庫化された、というエピソードをあとがきで知った。ちなみに春はあの名作『ショーシャンクの空に』の原作である。この二大名作が同じシリーズに収録されていて同時に発表されているのヤバすぎる。

映画がとても有名だけど恥ずかしながら映画を観たことがない。ぼんやりと、線路を伝って子どもたちが死体を探しに行く話だという概要だけは有名なので知っていた。

映画より先に原作から読んだわけだけど、まずびっくりしたのがスティーヴン・キングの文章力の高さだった。『スタンド・バイ・ミー』の最初の書き出しから既に震えるほど素晴らしく、その1ページを読んだ時点で一度手を止めたほどだ。初っ端の「つかみ」の時点で完全に心を捉えられてしまった。
スティーヴンキングというと映画のイメージが強いから、お話を作るのが上手い作家なのだと思っていたけど(実際お話を作るのもべらぼうに上手いのだけど)、文章も凄まじく鋭い。全編を通して、言葉にしづらい微妙な感覚を言語化するのが上手いし、パワーがあってグサグサ刺さってくる。

もう一つ驚いたことは、スタンドバイミーといえばあの主題歌で、爽やかな友情青春モノみたいなイメージだったが、実際には暴力に溢れ死が隣り合わせにある、血生臭い物語だったこと。
大人に殴られ、不良に殴られ、骨折し、血を流し、死に向かう。年上に歯向かえない子どもたちの無力さ、それに抗おうともがく姿が描かれる。汚い言葉も大量に出てきて、とても綺麗な内容とはいえない。
そして「死」に対する描写もとても生々しい。列車に轢かれそうになり死を意識する恐怖の描写、初めて死体を目の当たりにしたときの心情描写は特に鬼気迫るものだった。

大人たちに縛られながら、どこにも行けない閉ざされた世界でもがき生きる子どもたちの友情、信念、戦い………。作家となった主人公が過去を回想する形で語られるこの憧憬の物語は、血生臭い暴力に溢れながらも、少年時代特有の美しさを感じられる不思議な魅力に溢れた作品だった。スティーヴン・キングの半自伝的な作品として、物語を語ること、言葉にして表現するという行為自体にも言及して少年時代を描くリアリティは凄い。

また、この「大人には理解されない、子どもたちにとって人生を賭けた大冒険」という内容からはとてもMOTHER(ゲーム)のルーツを感じられた。そもそもこの作品を読もうと思ったきっかけが、自分が大好きなゲームであるMOTHERのルーツを追いたいと思ったからであり、それをしっかり感じられて良かった。
自分の感性のルーツはこのMOTHERというゲームにすべて詰まっているわけだけど、『スタンド・バイ・ミー』もまた自分にとってこれからずっと心に残り続けるであろう名作であった。

登場人物が全員あまりにも魅力的すぎるので自分がいまさら特筆するまでもないと思うが、その中でもやはりクリスという少年の刹那的な危うさと美しさは、小説を数多く読んでもそうそう出会えるものではないレベルの存在感だったと思う。
そしてこのクリスを殺害する通り魔はショーシャンク刑務所から出てきたばかりの人物で、実は春編の『刑務所のリタ・ヘイワース』(ショーシャンクの空に原作)と繋がっている。

冬編として収録された『マンハッタンの奇譚クラブ』は、この『恐怖の四季』の4編の中では唯一実写化されていない作品ということだけど、スタンドバイミーほどの名作と並んでも埋もれてしまわない面白さだった。

「物語を語る人たち」が集まる奇妙なクラブにひょんなことから出入りすることになる主人公。そのクラブではクリスマスにとっておきの話をするという習わしがあり、最年長のおじいちゃんが語るとっておきの話が想像を絶する内容だった……というお話。そのおじいちゃんの物語だけを切り取って短編にしてもよいレベルで濃い話なのに、あえて「奇譚クラブで語られた物語」という作中作にするのが趣深い。おじいちゃんが語る非現実的な物語と、奇譚クラブの浮世離れした雰囲気で、まるでそのクラブがこの世のものではないような不思議さが伝わってくる感覚がとてもよかった。

スタンドバイミーとマンハッタン奇譚クラブ、どちらも全く異なる作品だけど、「物語を語る」という行為をどちらも取り上げている。
「物語」を求めてこの本を読む読者とリンクする感覚があり、かなり良い読書体験となった。

しかしこのあと読む春夏編がこれを超えるレベルで素晴らしい読書体験を与えてくれたというお話は、また次の機会に。

この記事が参加している募集

#読書感想文

190,781件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?