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ABC殺人事件 / アガサ・クリスティ

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2021年10月6日 読了

とても有名な作品だが、内容もトリックも知らない状態で読めたのは幸福だった。

Aから始まる名前の町でAから始まる名前の人物が殺され、Bの町でBの頭文字の人物が殺され、Cの町でCが殺され……という連続殺人が起こるあらすじ。探偵エルキュール・ポアロ宛に犯人から挑発的な殺人予告状が届くなど、あらすじだけを見ればよくあるライトな連続殺人ミステリーのような印象もあるが、実際は想像以上に複雑で緻密に作り込まれた真相とトリックが隠されている。

誰もがサイコな連続殺人犯を捕らえようと必死になる中で、ポアロだけはずっと「動機」と「犯人像」にこだわり続ける。そのポアロの思案は読者をも置いてけぼりにする感じがあり、犯人に翻弄されなかなか解決の糸口が見えてこない展開はやや退屈さもあったが、その分ラストでポアロの思案が一気に結実する瞬間はとても気持ちいい。語り手のヘイスティングズがポアロに天才的な推理を期待する様子も読者とシンクロしており、もどかしさを感じさせられながらもラストであっと言わせられるところは完全に作者の手のひらのうえという感じがあった。

「動機」にこだわり続けた結果犯人にたどり着く、ワイダニットとフーダニットの二重構造、さらにヘイスティングズ視点の記述と第三者視点の記述が並行して語られていく構成など、巧みな物語の作り込みに脱帽した。
「隠し事をしている人間にとって会話は危険である」というセリフにあるように、会話を中心に真相を暴く推理も面白い。

いまでこそ有名なトリックになってしまっているが、それでも未だ古臭さを感じさせないのはさすがだと思った。


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