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2022年に読んだ中で特に面白かった本ベスト5

皆様、あけましておめでとうございます。
普通こういう記事は年末に書くものだと思うので今更感がありますが、2022年も読んだ本の振り返りをしたいと思います。
2022年発表の作品ではなく、あくまで僕が2022年に読んだ、というだけの本当に個人的な振り返り記事です。

僕は基本的に小説しか読まないのでほぼ小説となりますが、40冊くらいの本を読んだと思うのでそのなかからお気に入りを挙げていきます。せっかくなので、その本を読もうとしたきっかけなんかも書けたらと。
※読んだ順なので順番に優劣は無いです。

1.『ゼロ時間へ』アガサ・クリスティー

2021年はずっとアガサ・クリスティーを読んでいた年で、2022年のはじめまでかけてたくさんの作品を読み耽りました。ポアロシリーズのラストを飾る『カーテン』も読み終え(これも本当に素晴らしかった)、いわゆる「ノン・シリーズ」に手を出そうと読んだのがこの小説です。

普通の推理小説は、犯行が起こったところから物語がはじまってそれを推理していくという構成がよく見られますが、この小説は犯人が殺人を計画するところから始まり、犯行の瞬間である「ゼロ時間」に向かう……ということが小説の冒頭で示唆されます。
しかし読み進めても何ら普通の推理小説という感じで、普通に犯行が起こるし推理も進む。聞いていた話と違うじゃないか……となるのですが、当然一筋縄ではいかないクリスティ作品。衝撃の真相によって「ゼロ時間」の本当の意味を最後に理解することになります。
恐ろしく作り込まれた構成で、最後の最後まで気が抜けない素晴らしいミステリーでした。登場人物も魅力的で読みやすいです。

2.『スプートニクの恋人』村上春樹

村上春樹翻訳のアメリカ文学『大聖堂』や『グレート・ギャツビー』を読んでいて、久しぶりに村上春樹作品が読みたくなったので、未読だったこの小説を手に取ってみました。なんとなく手に取ったわりにとても素晴らしい小説でした。

本作も村上春樹おなじみの主人公「僕」の視点から、世界の「こちら側」と「あちら側」を描いた、いつもど〜〜りの村上春樹の長編作品という内容ですが、上中下巻もある『ねじまき鳥クロニクル』や文庫で6冊もある『1Q84』に比べて薄めの一冊で完結するのがまず読みやすく、シンプルにまとめられている印象がありました。

村上春樹の作品は、文章で内容を説明しようとすると難解に思えますが、難しい概念をスッと理解させることに関しては天才的で、この小説で表現されている内容もとても難しいように見えてとても共感でき、体に馴染む感覚を得られます。
孤独な人工衛星「スプートニク」に物語をたとえ、主人公の「僕」と二人のヒロイン「すみれ」「ミュウ」の決して交わらない軌道が描かれた不思議な恋愛小説です。「孤独」というテーマに寄り添った印象に残るシーンが多く、個人的にはこれまで読んだ村上春樹作品のなかでも特にお気に入りの一冊になりました。

3.『観光』ラッタウット・ラープチャルーンサップ

2022年に限らず、これまでの読書体験のなかでも殿堂入り級に素晴らしかった短編集です。この本を知ったきっかけは「Taknal」という、すれ違い機能で知らない人と小説をオススメし合えるアプリがあり、その中で「こんなに素晴らしい文章を読んだことがない」と絶賛されているのを見て手に取りました。

自分にとって素晴らしい文章というのは技巧的な文章力ではなく「言語化」の力だと考えていて、言葉にしづらい感覚や情景を表現することが真の文章力だと思っているのですが、その点でこの小説はずば抜けていました。
決して明るい小説ではなく、タイを舞台にした重苦しい話が多いのですが、その中で描かれる絶妙な心理描写や、空気感が肌にまで伝わってくるような情景描写に没入させられます。タイに行ったことがないはずなのに、その風景がありありと浮かんできて、自分が実際にその場所にいるような不思議な感覚を味わいました。もちろん文章力だけでなく、物語ひとつひとつが秀逸で、すべての要素が合わさってこの独自の感覚を実現しているのだと思います。

個人的な話ですが2022年は11年ぶりの引っ越しという自分にとって大きいイベントがあり、その引越の真っ只中に読んでいたのがこの作品でした。そんなエピソードもあって、これからもとても特別な一冊になりそうです。

4.『カエアンの聖衣』バリントン・J・ベイリー

アニメ『キルラキル』の元ネタになった小説として以前から気になっていて手に取りました。文庫版のあとがきもキルラキルの脚本家・中島かずきさんが書いていて、キルラキルに限らず中島かずきさんの創作感そのものに影響を与えた作品とのこと。

スーツの繊維が知性を持って人間を支配するという設定がまんまキルラキルですが、それ以上に作品の内容が完全にTRIGGER作品。派手派手でスピード感のある展開、やたらと濃いキャラクターなど、トリガー作画で映像が脳内再生されます。気弱な主人公がスーツを着た瞬間スタイリッシュで知的なキャラクターになったり、服を着た瞬間巨大化する暴漢が出てきたり、キルラキルでも見た内容で思わず笑ってしまいますが、いちいち出てくるぶっ飛んだSF設定がとにかく面白くて夢中になって読みました。
クライマックスの壮大な展開やラストシーンもとても印象深く、おバカな作品と見せかけてとても斬新なアイデアに満ち溢れた痛快なSF作品でした。読書をしていてこんなに「楽しい!」と思ったのは初めてかもしれません。

5.『ぼくには数字が風景に見える』ダニエル・タメット

最後は小説ではなくノンフィクションのエッセイです。小川洋子さんが絶賛していると帯に書いてあるのを見かけて手に取りました。
サヴァン症候群という自閉症やアスペルガーの障害があり、数字や言語が形を持って浮かんでくる「共感覚」を持つ著者の記録。著者の幼少期から現在までの生い立ちが時系列順に淡々と語られていきます。

この本の良いところは、著者が自分の体験を変に強調したりドラマチックに描くことなく、淡々と事実を綴っていくところ。幼少期には理解を得られずにいじめられ、そこから立ち上がって自分のやりたいこと・やるべきことを見つけていくというストーリーが、感動の物語として記述されるのではなくただ淡々と記録されるからこそ生々しくリアルに想像でき、心に響きます。
何より印象深いのは著者が自身の病気でもある「てんかん」協会への寄付金集めとして、円周率暗唱の世界記録に挑戦するシーン。人前に出るのが苦手な彼がめざましい努力の末、大勢の前で5時間もかけて22,500桁もの円周率を暗唱するこの場面では、「数字がつくる風景を歩いていく」という脳内の描写がとても具体的で(この数字の並びはこういう風景が浮かんでくる、などが図とともに描かれる)、その情景描写に美しさすら感じます。とても感動的なシーンで、電車の中で読んでいて涙をこらえるのが大変でした。

2023年もよろしくお願いします。

2021年の振り返り記事を書いてからもう1年も経つのか……と驚いています。
本を読むのは自分にとって欠かせない習慣で、常に何か読んでいないと落ち着かないほどなので、目標にするまでもなく今年もたくさん本を読むと思います。
面白かった本は感想をnoteにアップしていますので、よかったら他の記事も読んでみてくださいね。
今年も何卒宜しくお願いします。

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