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【読書日記】ぼくには数字が風景に見える / ダニエル・タメット

2022年9月2日読了。

小説しか読まない自分にとって珍しくエッセイ。自分が好きな作家である小川洋子が絶賛していると帯に書いてあるのを見て、気になって手に取ったが、ドキュメンタリー小説のような感覚で読めた。

著者のダニエル・タメットはサヴァン症候群という自閉症やアスペルガーの障害を持っていて、数字や言語が形を持って浮かんでくるという共感覚の持ち主。この本では彼が生まれてからの生い立ちが時系列順に綴られていて、子供の頃はアスペルガーという言葉すら一般的ではなく、普通のことができずいじめられて友達もいない、誰からも理解してもらえない辛い子供時代が描かれる。
著者がそれらの経験について変に強調するようなこともなく、淡々と事実を綴っていく文体にも引き込まれた。

両親の支えがあってなんとか生きてきた彼が、自分の語学の才能(共感覚によって1週間で言語をマスターできて、数十カ国語を話せる)を活かして海外で人助けの仕事を始める決意が素晴らしく、自閉症として物凄く困難な道にも勇気を出して進んでいく姿に感動した。はじめての家族との離別、同性愛者としての目覚め、パートナーとの出会いなど、苦労が少しずつ報われていく様は小説より目が離せなくなる。

さらにダニエルは幼少期から悩まされた病気でもある「てんかん」協会への寄付金集めとして、円周率の暗唱世界記録に挑戦する。人前に出るのが苦手な彼がめざましい努力をして、本番では大勢の人の前で5時間もかけて22,500桁(!!)の円周率を暗唱するシーンは、「数字が作る風景を歩いていく」という脳内の描写が詳細に描かれる(この数字の並びはこういう風景が浮かんでくる、などが図とともに描写される)美しさもあり、暗唱が終わって大歓声が起こるシーンでとても感動してしまった。電車の中で読んでいて涙を堪えるのが大変だったほど。

また、あとから気づいたのはこの本の翻訳者が、自分がここ最近一番感銘を受けた小説『観光』の訳者だったこと。日本語では難しいであろう曖昧な感覚の翻訳を見事に読みやすくしていてくれて、翻訳にも愛を感じ、とても良い本だった。

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