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【読書日記】ブランコのむこうで / 星新一

2022年9月3日 読了

ブックオフの100円コーナーに見慣れない星新一の本があったので買ってみたら、星新一にしてはめずらしい長編で、しかもSFではなかった。

児童文学のような雰囲気の作品で、少年が夢の中の自分と入れ替わってしまい、いろんな人が見ている夢の世界を彷徨ってしまうという話。

夢の中でまぶたを閉じると現実の世界を覗けるのだが、夢を見ている主たちは、現実世界では病気だったり、子供を事故で亡くしていたり、ニートだったり自殺志願者だったりで、夢の世界とのギャップが生々しく描かれる。ファンタジーとリアルのコントラストが発想豊かで、主人公の何気ない行動がその人たちのちょっとした救いになったりならなかったりする展開が面白い。

しかし一人だけ、現実の世界の姿が明かされないお爺さんがいる。そのお爺さんは若い頃から夢の中で大理石を掘り続けていて、何かすごいものを作ろうとしては失敗し続けている。そして年老いた今は道行く人が転ばないように、道のくぼみにぴったりハマる石ころを作り続けており、それにとても満足している……。このエピソードが驚くほど深い話で心打たれた。さすが星新一である。

また、赤ちゃんの夢の世界に迷い込むシーンでは、「赤ちゃんはまだこの世の経験が無いから人が生まれるよりもっと昔の恐竜時代の夢を見ている」という設定が出てくるが、これは夢野久作『ドグラ・マグラ』に出てくる「胎児の夢」とほぼ同じ発想で、絶対関わりの無い天才作家二人が同じ発想に辿り着いているのは面白いなと思った。

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