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【読書日記】同志少女よ、敵を撃て / 逢坂 冬馬

2022年12月12日 読了。

アガサ・クリスティ賞史上初のの選考委員全員が最高得点をつけた作品ということで、本屋でもやたら平積みされていた話題の小説。
自分はあまり話題作に注目することが少ないのだけど、この作品が気になった理由は、Amazonのオーディブルで朗読を担当しているのが声優の青木瑠璃子さんであったからだ。何を隠そう青木瑠璃子さんは私の推しなのだ(声優としてというより、youtubeのゲーム配信者としてだけど……)。
しかしオーディブルというものを聴いたことがないし、本で読むほうが自分に合ってるしどうしようかなぁ…と悩んでいたところ、偶然にも友達がおすすめとして貸してくれたので読んだ。

第二次世界大戦のドイツ・ソ連の戦争を描いた作品で、狙撃兵として育てられた女性兵士を題材にしている。戦争の残酷さを重苦しく描きながら、そこで兵士として生きる女性たちの信念、そして「女性性」がテーマとして貫かれ、フェミニズム的な内容も多い。

ただ全体的にかなり漫画っぽい内容だと感じた。戦争の残酷さは文献に基づいたリアルなものであるものの、話の展開も漫画的で、見せどころも予想の範囲内に留まる。キャラクターも変に個性的でやはり漫画っぽい。そこがこの作品の魅力というのもあるだろうが、どうしても漫画で読んだ方が面白そうだなと思ってしまう。

文体も第三者視点であるのに主観的でドラマチックな表現が多用され、個人的にかなり苦手なタイプだった。漫画っぽさや地の文の過剰な表現は小説の魅力である「読み手の想像力に委ねる」部分を奪っている気がして苦手だ。

しかし、後半のたたみかける展開は思わず夢中で読むほど面白かった。第三者視点の文体だからこそできる、味方視点、敵視点などさまざまな視点から、戦争に対する見え方の違い・異なる思想が描かれていくのも面白い。特に、主人公の仇であるドイツ兵の視点が描かれ始めるくだりからは面白さが加速的に盛り上がっていったと思う。
戦争は人を悪魔に変えてしまうが、その悪魔も普通の人間である、ということが特に後半強く描かれ、「信念」というテーマを一貫して話が進んでいく展開は見事だった。
作中に出てくる「矛盾した感情を持つことは迷いではなく、それもまた一つの信念」という描き方も目から鱗だったし、自分の予想を覆す表現だったと思う。

標題の時点で「本当の敵とは誰なのか?」というオチになるんだろうなという予想はついていたけれど、そのタイトル回収の矛先となる敵の正体自体は予想外で、一本取られた。残酷な現実をタイトル回収のオチとして、主人公の「女性を守る」という信念が最後まで貫かれているのは熱い。

いつかオーディブルを試してみたいというときが来たら、この作品を聞いて改めて物語を振り返りたいと思う。


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