見出し画像

【読書日記】オーデュボンの祈り / 伊坂幸太郎

2022年11月14日読了。

伊坂幸太郎デビュー作。伊坂作品をほとんど読んだことがない自分に友人が「好きそう」と薦めてくれたので読んでみた。伊坂作品は『死神の精度』だけ読んだことがあるがそこまで印象に残らなかったし、『ゴールデンスランバー』は映画だけ見たことがあるが正直かなり微妙だったので、伊坂幸太郎に対してあまり良い印象を持っていなかった。

しかし、この『オーデュボンの祈り』はとても面白かった。とにかく読ませてくる内容で、一気に読了した。

外から完全に閉ざされた島で、喋るカカシが未来を予知し、殺人が認められた男が存在する、現実離れした設定の舞台。しかしそこでは普通の現代日本とあまり変わらない社会が成り立っていて、なんだか憎めない人たちが暮らしている、というとても不思議な話。
島の外(我々がよく知る現実社会)から連れてこられた主人公の視点で話が進むため、読者が主人公とリンクしてその島の異常性に振り回されるのも面白い。

設定自体はかなりゴチャついていて、明らかに不要な要素も多いが(作者がこういうの描きたかっただけという感じの設定も多い)、いちいち登場人物が魅力的でこの作品の世界に没入してしまうし、そういった作者の初期衝動的なごちゃ混ぜ要素がすべてパズルのように纏まって島の謎が解明されていくミステリー要素も、この作品が持つ不思議な魅力であると思う。何度も「不思議」という言葉を用いているが、誰もが「不思議」と感じるであろう掴みどころのない設定でありながら、かつ温かい気持ちになる小説だった。

残念だったのは、「城山」というキャラクターが最後まで主人公と対峙しなかったことだ。人間の悪意そのものを具現化したような、明確な「悪」として描かれる城山だが、この小説は主人公が彼から逃げる形でこの島にやってくるところから始まる。作品内で主人公の祖母とのやり取りがフラッシュバックのように繰り返し回想されるが、「あんたは大事なときに逃げ出すよ」という祖母からの言葉がトラウマのように付き纏う主人公が、「逃げる」形でこの島に来て最後には「逃げずに」城山と対峙する展開が来るのだと期待して読んでいたのだが、結局最後まで城山とは対峙せず、島のヒーロー(?)によってあっけなく排除される。個人的に期待しすぎた展開だったかもしれないが、城山という人物自体が過剰で嘘くさい胸糞に満ちたキャラクターだっただけに、その最期がとてもあっけないのは納得しがたかった(悪はこの島の象徴によって簡単に排除されるということを描きたかったのだろうか?何も知らない桜が苦しみを与えるように殺すのも都合よすぎると感じた)。

また、「この島には欠けているものがある」という言い伝えが序盤からラストに至るまで重要になってくるが、この真相が村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』と全く同じなのはちょっと笑った。現実の中で起こる超現実、という設定に最初からどうしても村上春樹がよぎっていたので、そのまんまのオチは決定的だった。このオチこそ作者がやりたかっただけ感が強い(しかし嫌いではない)。この作品がまんま村上春樹っぽいかと言われると全然そんなことは無いので、それもまた面白い。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?