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【読書日記】観光 / ラッタウット・ラープチャルーンサップ

2022年5月29日読了。

タイ系アメリカ人作家の短編集で、この作品はTaknal(おすすめ本のすれ違いアプリ)で知った。「こんな素晴らしい文章を読んだことがない」と紹介されていて、Amazonレビューも絶賛の嵐だったので、ほーん、と思って読んでみたら、その期待を遥かに超えてきた。

間違いなく今まで読んだ短編集のなかでズバ抜けていた。収録されていた7編すべてが素晴らしい(短編集で全編素晴らしいというのがそもそも初めての体験だった)。どの話も、泣かせにくるような話でもないのに涙腺が緩んだ。

レビューで多く言及されていた文章の素晴らしさについても納得した。本当に素晴らしい文章というのは技巧的な文章力ではなくて、「言語化」の力であると自分はずっと考えていて、言葉にしづらい感覚や情景を物語と文章を通して伝えることが小説における「良い文章」だと思っているのだが、その点においては最強の作品だった。

本に限らずいろんな創作物が好きな友達が以前「小説という媒体はその時点で映画や漫画よりも不利」ということを言っていて、それがずっと頭に引っかかっていた。確かにその通りで、わかりやすく映像や音が無い分、伝わりやすさという点で小説はかなりのハンデを背負っているように思う。
しかし、むしろ目に見えない、読者が文章から頭のなかで思い描くことしかできないからこそ表現できる映像的な美しさというものが存在する、ということを、この作品は思い出させてくれた。
目に見える映像よりも美しい情景というものが脳内には存在し得るのだ。その言語化において、これほどの作品に出会えることはそう無いだろう。

特に表題作「観光」は凄まじい。その情景を実際には見ていないのに、ラストシーンの「映像」が頭にこびりついて離れない。

この作家は2005年に25歳の若さでこの作品を世に出し、それからというものどこでなにをしているかすらわかっていないらしい。新宿紀伊國屋で行われた「文学ワールドカップ」という海外小説のワールドカップ的なイベントではこの作品が一位だったとか。この天才は今どこで何をしているのだろう。

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