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【読書日記】変愛小説集 日本作家編

2022年10月17日読了。

「変な恋愛小説」というテーマで編集されたオムニバス短編集。本当は海外作家のものがまとめられたやつを読みたかったのだけど、図書館で間違って日本作家編を予約してしまい、せっかくなので読んだ。

「変な恋愛小説」というテーマではあるものの、あくまで参加している作家にはそれを伝えず、ただ「恋愛」をテーマに書き下ろしてほしいと伝えたとか。この作家なら絶対変な一編が上がってくるだろうという編集者の自信のうえで声をかけた作家たちの作品群というコンセプトは面白い。

ただ、日本人作家のオムニバス短編集は個人的に良い思い出が無く、あまり期待していなかったが、その期待を裏切らず、全体的にそこまで面白くなかったかなという印象。

村田沙耶香の「トリプル」という短編は、カップルは3人1組で付き合うもの、という若者の間での新たな常識を描いた作品で、その常識が流行する過程もリアルだったし、常識と非常識の逆転を読者に体験させる点は面白かったが、性格が悪い評価をすると「Twitter漫画で5000RTくらいされてる感じの内容だな」というのが正直な感想だった。要するにアイデアは面白いがそれ以上の感動はなかった(それでもこの短編集の中では面白い方だった)。

ただ、そのほかに二人だけ、めちゃくちゃ面白い短編を寄稿している作家がいた。しかもその二人とも本職は小説家ではない人だった。

一人は安藤桃子(安藤サクラのお姉さん)で、映画監督のイメージが強いが執筆もしていたらしい。
冒険家の主人公がある部族の娘を妊娠させてしまい、しきたりによって目の前で娘と赤ちゃんが無惨に殺されるというかなりグロテスクで凄惨なあらすじだが、この作品の凄みはその体験から何年もの後、普通の日常を送る主人公がその死と性の感覚を忘れられずに危ういバランスで結婚生活をしている描写。文章がかなりギラギラしていて、映像の人とは思えないほど文章でしか表せない感覚に満ち溢れていた。

もう一人は小池昌代という人で、自分は知らない作家だったが本職は詩人らしい。
足の大きさにコンプレックスのある女性が、ある靴屋の店員と出会ったことで靴というアイテムに魅了されていく話。話自体は地味たが物凄く読ませる文章で、感覚的な描写力のひとつひとつが素晴らしい。終わり方も物語はズバッと潔く切って、感覚的な頂点をラストに置くのも自分好みすぎた。衝撃を受けるほどの短編で、個人的にはこの一編と出会っただけでもこの短編集を読んで良かったと思う。

多くの作家のオムニバスなのですべての作品を好きになれないというのはわかっていたし、これだけ面白いのが二つ読めただけでも満足した。この二人の本は他も読んでみたいと思う。

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