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お酒の名言

「酒を一切飲まぬ男、煙草をのまぬ男と結婚してはいけない。」R・L・スティーブンソン


あの街に行きたい。鮮烈で明白ないつかの憶えがふとよぎり、どうしようもない現時点から、恋焦がれるあの街へ、店へ、今すぐにでも移りたくなる。お酒を飲めばあの街が、コーヒーを飲みたくなればこの街が、寒風に吹かれるならばあの宿が、それらの体感が今現在のように思われる。私にはお酒の場合が多いようだ。無作法に酔ったあそこへ行きたい。本日の酔った頭には、酔ったかの時の風が思い出される。牡蠣が食べたい。暖房の効いた座敷の方で、重たいマフラーを解きたい。そこには彼奴がいれば良い。そこには彼女がいれば良い。

往々にして時とは過去の方が厚く、蔑ろにした今朝だって、思えば重要な一時であった。涼しく過ごしたあの日々は現に激しい火傷となって、友は二度と帰らぬものと誰がその時思うだろうか。かったるい朝方が如何にして高尚か。それは未来にしか知り得ない。

ふと、訳も無しに一条の風の様に胸をよぎる悲しみがある。この悲しみに、一杯の酒は似合いである。

金石範

その点お酒は格別である。その時最も幸福で、後にもゴマンと幸福をもたらす。寒気より蒸し暑さよりも、香りよりも声よりも、もっと容易でダイレクトである。人間酒を持つ限りこれを手放せはしないだろう。それは天の産物なのだ。

朗らかで阿呆な気持ちは、そのまま昔の朗らかで阿呆な時点につながっている。昔酔いどれの街こそ本当だと思ったことがある。そして今もまた思っている。酔った頭こそ正確で、街は酔って歩くに限る、と。一方今は在宅で、1人の無茶な酒飲みであるから、よいよい外へ赴けば、危険浮浪者の間抜な凍え死にだろう。しかしそれも愉快だと思う。酔いたい時には酔えば良かろうなのだ。

酒を飲むは楽しみを以て主となす。

『荘子』漁夫篇

飲めば死ぬ、飲まなくても死ぬ。

モンゴルのことわざ

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