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#245:ピカソ(寿限無)

くだらないお笑いをひとつ。

八五郎「和尚さん、こんちは」

和尚「あら、八五郎さんとは珍しいですな。こんにちは。さて、今日はどうされましたか?」

八五郎「いやー、どうも。それがね、今日はひとつ、和尚さんにお願いがあって参ったんです」

和尚「お願い?はい、拙僧でお役に立てるなら」

八五郎「おーそりゃ、よかった。実はね、うちにこの前、ガキが1匹ひょっこり生まれまして」

和尚「1匹ってね、あなた…。ああ、それなら聞きましたよ。誠におめでとうございます」

八五郎「めでたいんすかねー。まあ、そんでご相談なんですが、和尚さんに名前をつけてもらいたくてね。いえね、かかぁがあんたじゃロクな名前も思い浮かばないだろって抜かすんすよ」

和尚「ほぅ、マリアさんが。それで、拙僧に相談いただいたということですかな」

八五郎「まあ、そんなところで。なんで、ひと思いにブスッと名前をつけてもらえないっすか?」

和尚「いや、誰か刺し殺すわけじゃないんだからね。まあでも、それはご相談に乗りましょう」



和尚「ところで、どんな名前が良いかね?」

八五郎「そりゃ、もう誰にもバシッと分かりやすい名前がいいね」

和尚「では、男の子だそうだから、太郎とか一郎とかは分かりやすくて良いんじゃないかい?」

八五郎「あー、和尚さん、そりゃダメだ」

和尚「なんでだい?」

八五郎「うちのマリアはスペイン人だろ。だからあっちのお義父さんやお義母さんにも分かりやすい名前じゃないとダメだ」

和尚「なるほどねー。それはそうだな…」

八五郎「そう、スペイン人にも分かりやすくて、ビシッとしたよい名前はないかね?」

和尚「なるほどね。なるほどではあるのだが…。(それでなぜ私に相談来たかね、この人は…)」

八五郎「和尚さん、何か言いましたか?」

和尚「いやいや、こちらの話だ」



和尚「じゃあ、こういうのはどうだ?日本でも有名なスペイン人の名前をつけるのは?そうすれば日本でもスペインでも分かりやすい名前になる」

八五郎「おう、それはいいね。例えば?」

和尚「いや、むしろお前さんでも知ってる人を探すのが良いな。八五郎さん、あなた、誰か思い浮かぶスペインの有名人はおらんか?」

八五郎「うーん…、じゃあ、イニエスタ」

和尚「おー、日本にもいたサッカー選手だな」

和尚「そうすると、アンドレス・イニエスタだから、お宅のお子さんはアンドレスだな」

八五郎「アンドレス?何だそれ?それだと誰にもよく分からん名前になっちゃうよ」

和尚「まあそうだな。では、アンドレス・イニエスタまでを全て名前に入れてしまえばよかろう」

八五郎「おう、なるほど。すると、おいらの苗字は比嘉曽(ヒガソ)も繋げると…」

和尚「比嘉曽(ヒガソ)・アンドレス・イニエスタ、という具合になるな」

八五郎「比嘉曽(ヒガソ)・アンドレス・イニエスタ?…うーん、何かしっくりこないな。そもそも球蹴りは、あんまり好きじゃないんだよなー」

和尚「いやいや、お前さんがあげた名前だがな」

和尚「まあ良いわ。他にはスペインの有名人を知らんか?サッカー選手以外でな」

八五郎「うーん…、そしたら、ガウディかな」

和尚「おう、よし。では、アントニ・ガウディという名前からして、比嘉曽(ヒガソ)・アントニ・ガウディだな」

八五郎「比嘉曽(ヒガソ)・アントニ・ガウディね?なるほどねー、悪くないな。ところで和尚さん、ガウディって何した人なの?」

和尚「お前さん、知らずに名前を出したのか。スペインの有名な建築家だよ。サクラダファミリアという名前は聞いたことないか?」

八五郎「桜田門外の変?うーん、何か聞いたこともあるような、ないような。いや、でも建築家ってのが気に喰わねぇな。てめぇで作らない建築家より実際に作る俺ら大工の方が偉いってんだよ」

和尚「まあどっちが偉いではないがな。ただ気に喰わないのでは仕方ないな」


和尚「では、他に知ってる名は?」

八五郎「ペネロペ・クルス」

和尚「それは女だ」

八五郎「アントニオ・バンデラス」

和尚「もう60超えていて若い世代は知らんぞ」

八五郎「…和尚さんはやけに詳しいな」

八五郎「うーん、こりゃなかなか難しい」

和尚「そうじゃな、もう既に死んでる歴史上の人物がよいかもしれんな。流行り廃りがなくての」

八五郎「…。お、思いついた!ピカソだ!」

和尚「ほぅ、なるほど。それは良いかもしれん」

和尚「確かピカソは、パブロ・ピカソだな」

八五郎「じゃあ、比嘉曽(ヒガソ)・パブロ・ピカソになるのか?」

和尚「いや、どうじゃろ。比嘉曽(ヒガソ)は元からピカソに近い。比嘉曽(ヒガソ)・パブロ、
そしてスペインでは、パブロ・比嘉曽(ヒガソ)で良いのではないか」

八五郎「パブロ・比嘉曽(ヒガソ)?おー、それいいねー。分かりやすいし、覚えやすい!」

和尚「確かに良い名前じゃな。…お、でも少し待てよ。パブロで本当にあっておったかな」

和尚「ちょっとwikipedia で調べてみるぞ」

八五郎「え?wikipedia?…坊主も使うんだな」

和尚「放っておけ。うーん、あったぞ。これだ」

和尚「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ…だそうだ。」

八五郎「え?なんだって?」

和尚「ほら、ここだ。このwikipediaを見ろ」

八五郎「えっと…、パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ?…か。」

和尚「うーん、これは少し長過ぎるな」

八五郎「いや、まあそれがちゃんとした名前というなら仕方ねえ。それに俺、気に入っちゃったんだよ、比嘉曽(ヒガソ)とピカソひっかけるの」

和尚「変なところを気に入ったな」

八五郎「そうすると、和尚さん。ピカソを比嘉曽(ヒガソ)に変えてみるとどうなる?」

和尚「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・比嘉曽(ヒガソ)、になるな」

八五郎「うーん、和尚さん、途中で分かんなくなっちゃった。もう一回!」

和尚「え?もう一回とな?」

八五郎「そう、もう一回!」

和尚「うーん仕方ない。よーく、聞いとくれよ」

和尚「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・比嘉曽(ヒガソ)じゃ」

和尚「もう2度と言わんぞ」

八五郎「はいはい、分かりやしたよ。今度分からなくなったら、俺もwikipedia見るよ」

八五郎「和尚さん、ありがとうございました。恩に切ります。」

(そして子供は、すくすく成長して小学生に)

近所の小学生・大輔「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・比嘉曽(ヒガソ)君、おはよう!一緒に学校行こう!」

マリア「あら、大輔くん、おはよう。うちのパブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・比嘉曽(ヒガソ)は、いまご飯食べ終わってトイレなの。少しだけ待ってくれる?」

大輔「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・比嘉曽(ヒガソ)君のお母さん、おはようございます。はい、少し待ちます…って、名前長いから話してる間に来ましたね。」

大輔「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・比嘉曽(ヒガソ)君、おはよう!」

パブロ「おはよう、大輔くん!朝なのに何か疲れた顔してるけど、どうしたの?」

大輔「何だか君と一緒にいると、とても顎が疲れるんだよねー」

パブロ「気のせいだよ。だって僕は疲れないよ」

馬鹿馬鹿しいお話で。お粗末様でした。


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