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#173:この世にたやすい仕事はない

読書感想文です。まずタイトルがよい。

OJT、もしくはセラピー

この本の主人公は、とてもよく仕事ができる。そしてあらゆる仕事の現場に入って、しっかりと結果を出していく。同僚にも評判が良い。

そのため、この本は読むだけで立派なOJTになりそうである。主人公の仕事に対する視点や周りの人間観察や距離の取り方、手の動かし方は参考になるところが多い。36歳という社会人経験が為せる技かもしれないが、視点は盗める。

一方で、前職で色々あって主人公は心身ともに弱っている。そのため、自ら仕事に入り込み過ぎないように、仕事選びも仕事の中でも制限を設けてリハビリしている感じ。

意図してリハビリを行っているわけではないがいくつもの仕事を転々とするうちに、徐々に、前職で損なわれた体調や気力のようなものが癒されていく。まるで仕事を通じた行動療法か、セラピーのようである。

読んでいる人にも、仕事で抱えているキツさや息苦しさ、モヤモヤもあるだろう。そのような吐き出せない何かを、主人公が仕事の中で解消させる姿を通じて、同じように読んでる人も少し癒せるかもしれない。

そういう意味で、この本はOJTにもセラピーにもなるかもしれない。

あらゆる仕事

それにしても、あらゆる仕事が描かれている。

誰かを監視する仕事であったり、バスの広告アナウンスの原稿を書く仕事であったり、森林公園の管理の仕事であったり。

仕事の細部やその現場の人間関係、葛藤、喜びが自然にリアリティを持って描かれているので仕事も色々あるなーと素朴に感心してしまう。

その中でも、最初はどの仕事にもある程度距離を置いて自分の精神の安定を守る主人公。だが次第にその仕事に思い入れができて、何とかより良い結果とならないか試行錯誤する様子は、同じ働く者としても感情移入してしまう。

その職務内容でしか分からない葛藤やこだわりの部分、小さな想像力(創造力)の発揮など、仕事ってこういう細部の積み重ねでできているなーと、強く実感しながら読み進めていった。

ストーリーや言葉選び

巧みなストーリー展開、時折はっとさせられる言葉選びの凄さ(※)も、この本をどんどんと読み進めていく際の原動力になる。

(※)「ソリッドな話題選び」「刮目した」「新野新」(最後は関西限定)など、はっとさせられる言葉選び。まさにその表現がピッタリ

この本は、以下のなしこさんのnoteを読んで、興味を持って読んだ。この著者の本は初めてだが、描写のリアリティと細やかさには驚いた。さすが芥川賞作家である。

まあ芥川賞作家の本を取り上げて、ストーリーや表現力がどうとか言うのもアレだが、素人にも分かるほどの力量ということなんだと思う。

とにかくこの本は非常に面白かったので、この著者の他の本をこれから順番に読むと思う。

ただし「おかきの袋のしごと」の話を読む時はかなりおかきや煎餅が食べたくなるので、夜中の読書には注意が必要である。

長文をお読みいただきありがとうございます。



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