『つみたてNISA』機能開発の全貌を公開。それぞれのフェーズを振り返って
こんにちは、sustenキャピタル・マネジメント、テクノロジー本部長の益子です。普段は全社のテクノロジー部門の役員もしながら、おまかせ資産運用サービス『SUSTEN』のプロダクトオーナーもしています。
これまで、エンジニアチームで『つみたてNISA』機能開発の概要や詳細についてシリーズ記事を連載してきましたが、今回がラストとなります!
そもそも資産運用サービスの開発とは、というところから今回の大規模プロジェクトについての振り返りができればと思いますので、エンジニアの方はもちろん、金融や投資、FinTechといった領域に興味がある方にも読んでいただけると嬉しいです。
▼2023年2月にリリースした『つみたてNISA機能』
https://susten.jp/tsumitate-nisa
▼つみたてNISA開発シリーズ
https://note.com/susten/m/mdf6f1e407bc1
資産運用サービスの開発って?
まず初めに、金融サービスと聞くと、「レガシー、堅い」といったイメージを持っている方も多いかと思います。
これまであまりプロジェクトの具体的な中身については発信してこなかったのですが、資産運用という金融領域においても、sustenではモダンな技術や開発手法を積極的に採用しています。
たしかに金融業界というのは、お客様の大事な資産を預かるという性質上、各種法令やガイドラインなどの様々なレギュレーションに基づいてシステムを設計する必要があり、一定の慎重さが必要になります。
ただ、レギュレーションが厳しい部分があるからといって「ウォーターフォール型の縦型開発」だというわけでもありません。実際にはテクノロジーに強いプロダクト開発チームと、ドメインに強い金融チームでフラットに議論を重ねながら物作りをしています。sustenの開発は、そういった異業種のメンバーのコミュニケーションがとてもフラットで、スタートアップらしいところが魅力的だと感じています。
今回メンバーの書いてくれた記事からも、そういった雰囲気を感じとってもらえるのではないでしょうか。
後述のパイロットプロジェクトなどにも、そうしたsustenらしさがよく出ていたと思っています。
資産運用サービスの開発って何がおもしろい?
これを読んでくださっている方の中には、金融業界、特に投資や資産運用といった領域には身近でない方もいるかもしれません。実際に、日本人の資産の約半分は運用されずに現預金として保有されている状況で、諸外国に比べて資産運用は浸透していないと言えます。(金融庁資料(https://www.fsa.go.jp/singi/kakei/siryou/20170203/03.pdf) より )
susten は、テクノロジーの力でこの資産運用を身近なものにすることで、日本人の長期的な”豊かさ”を実現したいと考えています。
今回開発した『つみたてNISA』については皆さんご存知でしょうか?
個人向けの長期・積立・分散投資を促す非課税制度で、2024年からはさらに拡充した制度として新たに始まることが金融庁からすでに公表されています。(NISAってなんだっけ?という方はコチラの解説記事をどうぞ)
このお得な非課税制度を呼び水に、眠っている個人貯蓄を投資に回すことで、市場経済の循環を促しつつ個人の資産形成を支援したいというのが政府の考えです。このNISA制度を入口にして、本当に良い資産運用サービスが広がっていけばいいなと私たちは願っています。
ただ、この入口となるNISA制度、年間の投資できる上限枠があったり、購入できる商品に制限があったりと、ユーザーにとっても複雑でわかりづらいんです。そうした要件の難しさを満たしつつも、いかにエンジニアリングによって不便を解消してユーザーにとって使いやすいものにできるか。そこにFinTechサービス開発の、sustenの挑戦の面白さがあると思っています。
私自身、コンプライアンスやカスタマーサポートなどエンジニアチームの枠を超えてメンバー同士がディスカッションしてつみたてNISA機能を作り上げる経験は非常に刺激的なものでした。各メンバーが色んな切り口で「家族や友人にすすめられる投資信託サービスの創出」というミッション実現の難しさと面白さを感じたと思います。
NISAプロジェクトについて
今回はこのNISA開発プロジェクト全体がどのようなスケジュールで進んだかをふり返り、各フェーズの概要について書いていきます。
経営陣のディスカッション(2021年秋〜冬)
CEOの岡野から「『SUSTEN』につみたてNISA機能を追加しよう」という話がでて、経営陣全体でディスカッションを行ったのがこの時期です。
最初「1年でリリースしたい」と言われたときはエンジニアとして正直に「不可能だ」という話をしたのをよく覚えてます(笑)。
この頃はエンジニアが社員4名、全体でも10名ほどの体制でした。その人数で社内のPCの購入からインフラ管理にWi-Fi整備、顧客管理のツールやバックオフィス用のソフトウェア作成、投信チーム向けの銀行口座の連携といった内部的なものから、顧客向けのWebアプリケーション、各OSのアプリ開発、広報用のLPまで全部をエンジニアチームがつくってきました。
これだけでもかなりハードだった中に持ち上がったのが『つみたてNISA』です。これは弊社の既存のロボアドバイザー投資とは中身がまったく異なるため、これまで作ってきたシステムをもう1つ作るような開発ボリュームがあります。当時のリソースから試算しても「リリースには最短2年かかる」というのが私の見立てでした。
しかし、投資初心者の方に私たちのサービスを届けていくためにも、このタイミングでSUSTENがつみたてNISAに対応することはやはり「1年以内」がベストであるという経営判断に辿りつきました。
既存の機能の運用もある中、1年で。
笑うしかないような話ですが、どうやったら実現できるか同じエンジニアチームの取締役である中村と採用施策やパートナー企業の検討など必死で策を練りました。
初期調査(1月〜2月)、全社員に告知(2月〜3月)
つみたてNISAを取り扱うため、各種法令やレギュレーションの確認などビジネス面でのフィージビリティの調査を、①の時期と併行して調査を行っていたのがこの時期でした。このあたりの作業は金融業界独特のものかもしれません。
プロジェクトをスタートできることが分かった後は、全社的にNISA開発を進めようとしていることをプレゼンしました。
エンジニアメンバーにとっては「このリソースじゃキツくないか!?」だったのか「やるぞ!」という気持ちだったのか、はたまた「NISAって何?」って感じだったのか。ここはメンバーごとに様々だったと思います。
全社的なパイロットプロジェクト(5月〜6月)
NISAへの参入は社内でも経験がなく、当初から不確実性の高いプロジェクトとなることが分かっていました。顧客向けシステムの開発体制やカスタマーサポートフロー、各技術検証や業界規則の確認など、すべての部署で「NISAをSUSTENに導入するにはどうすればよいか」の確認をするパイロットプロジェクトをスタートさせ、丸2ヶ月をかけて実現可能性の確認を行いました。
開発チームでは、NISAのプロトタイプ開発を行い、リリースまでに必要な工程の洗い出しやスケジュールの見積もりなどを行っていました。「2024年に新NISAに切り替わるのに、2023年から開発する必要はあるのか」や「基幹システムをフルスクラッチで内製すべきか、定評のあるパッケージを導入すべきか」など、様々な議論が白熱して交わされた期間です。
特に開発リソースについては、当初通り社内のチームだけでは到底スケジュールを達成できないことが分かっていたので、外部の開発リソース調達にも奔走した時期でした。事前に社内全体のシステムを役割ごとに分解・整理し、それぞれについて独立したチームで開発できるように整理していきました。その上で、どの部分を事業としてのコアコンピタンスとして内製すべきか、優先順位をつけていきました。
このあたりのお話は、以前 AWS startup.fmでもお話していたところです。
「【AWS Startup.fm】スタートアップならではの課題:人材採用/育成、リソース不足の解決策をご紹介します」
開発(7月〜1月)、正式リリース(2月1日)
パイロットプロジェクトでの確認が終わり、2023年2月のリリースを目標に本格的な開発がスタートしました。中村と二人で開発プロジェクトを分担し、私は『勘定基盤』と『NISA口座開設』の機能を、中村が『積立設定』や『NISA口座画面』などを担当、フルスクラッチで開発しました。
CTOとして開発を振り返って
今回のプロジェクトに関して、やはり1年でこのサービスを作り上げるのは無理なんじゃないか…?と何度も思いました。
何よりエンジニアの開発リソースが足りていなかったので、その中で開発期間は実質半年しかないわけです。他社での開発経験を顧みても、年間の大型プロジェクトがスケジュール通りにリリースできたことはまれでしたし、チームとしても個人としても非常に大きな挑戦でした。
しかし、全員の努力の甲斐あって予定通りにリリースが完了。しかもほとんど不具合が起きませんでした。これはメンバー全員のクオリティへの意識の高さ、外部パートナーとの連携の、各担当者の主体的な取り組みと個々の成長、様々な要因が合わさったから出来たことです。
みんなが一丸となって頑張った結果で、メンバーには感謝しかありません。
ただ、無理だと思っていたものが奇跡的に間に合ったということは、紛れもなくメンバーにはかなり負担をかけていたということも事実で、この時期の反省がありその後のスクラムの導入などに繋がっています。
つみたてNISA開発時におけるプロセスの反省点と、そこからどう新NISA開発につなげていくかについては、もう一人のCTOである中村が詳しく語ってくれています。
さて、これまで、SUSTEN開発チームから複数回に渡ってつみたてNISA開発について発信させていただきました。資産運用をやったことがないという方も、金融システムどうなっているのか知らないという方も、これまでの記事を読んで、金融システム開発裏側の一端をお伝えできていればうれしいです。
SUSTENは、必ずしも金融出身者のみというわけではなく、むしろ他業界からジョインしているエンジニアがたくさん活躍しているチームです。来年の新NISA制度に向けて、いまも続々と機能開発を続けていますので、是非、新しい領域に挑戦してみたいという方はSUSTENに興味を持っていただけるとうれしいです!
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