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「ビジネスと人権」のハードロー化は3つに分類できる
人権外交→人的資本開示、そして今年(2023年)は「人権デューデリジェンス」という言葉が多く聞かれるようになりました。
日経の記事によれば、国内外は
米欧では人権侵害のリスクをおさえるための法制化の動きが進んでいるが
日本では2022年に企業に対応を働きかけるガイドラインを策定したことなどにとどまっている(まだ法制化されていない)
といった状況であるのに対し、
米欧では人権侵害のリスクをおさえるための法制化の動きが進む。日本は22年に企業に対応を働きかけるガイドラインを策定したことなどにとどまる。
提言は「日本は主要7カ国(G7)の中でビジネスと人権分野のハードローの制定が進んでいない唯一の国だ」と指摘した。「日本がG7の議長国を務める23年ほど絶好の機会はない」と唱えた。
議連は近く政府に提言を申し入れる方針だ。
「企業の人権尊重促す法律 『2023年制定を』 超党派議連」
企業はといえば、2023年3月期以降、有価証券報告書で開示が義務化された人的資本に関する情報開示状況を見ても、人権への言及は「4社に1社にとどまる」という状況のようです。
人権重視の取り組みについては、人権をテーマにした従業員研修の受講率や、人権保護を念頭に置いた原材料調達の規定などを記す例があった。ただ現時点では有報への記載ルールが設けられていないこともあって、人権への言及がみられた企業は4社に1社と限られた。
「響かぬ人的資本の情報開示『人が資本』の経営は本物か」
つまり、日本企業における人権への取り組みは(昨日のnoteで採り上げたアパレルなど一部で例外はありそうですが)緒に就いたばかりであるのに対し、法制化の流れは海外から進んでおり、早晩日本企業も対応を迫られることになる(一部ではすでに迫られている)ということですね。
これはちゃんと理解しなくては…ということで、本日はまず、海外における法制化の現状を調べてみることにしました。
西村あさひ法律事務所の『「ビジネスと人権」の実務』という本の、第1章「ビジネスと人権」の最新動向と実務対応の「Ⅱ 欧州における先端動向」の部分を読んでみましたので、ポイントを整理してお伝えします。
1. 法制化のきっかけとなった出来事
(1)ラナプラザ事件
2013年4月、バングラデシュの首都ダッカ近郊にあった裁縫下請工場ビル「ラナプラザ」が崩落し、少なくとも1,132人が死亡、2,500人を超える負傷者が出た
この縫製工場には欧州企業も下請けに出していたことでヨーロッパでも大きく取り上げられた(日本でも広く報道された)。
この事件は2015年のG7サミットでも採り上げられ、首脳宣言でも言及される等、その後のビジネスと人権に関する取り組み強化の契機となった。
【補足】
今年(2023年)はラナプラザ事件からちょうど10年なのですね。日経にはこんな記事が載っていました。生存された方には、今も障害が残り働けない人が少なくないのだと伝えています…。
(2)投資家を含むステークホルダーの意識変化
従来経済的な利益に着目していた投資家の意識に変化があったのは注目すべきこと(例:2016年・ブラックロックCEOフィンク氏の「CEOへの手紙」)
(3)EUの政策
欧州委員会が2019年~2024年の優先課題として掲げた6つの課題の根底には自由、民主主義、法の支配とともに人権の尊重の考え方がある
→ 各国の取組状況にも反映
(4)コロナ禍等を経たVUCA時代への対応からの要請
想定外のことを想定し、想定外のことを統治していくことの重要性を認識
→その一環として人権への対応を含めたサプライチェーンの管理も
2. 法制度(ハードロー)の3類型
英国、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スイスですでに法制化されており、EUレベルでも議論が進んでいる
すでに法制化がすすんでいる法律は、下記の3つの類型に大別できる
(1)開示報告義務型
人権リスクの対応に関する開示報告を義務づけるもの。
例:英国現代奴隷法
(2)人権DDの実施義務型
人権DDの実施と開示・報告を義務付けるもの。
例:
・フランスの企業注意義務法
・ドイツのサプライチェーンDD法
・ノルウェーの透明性法
(3)通商規制型
強制労働により製造された産品等の輸出入の禁止や、サイバー監視技術利用機器等の一定品目の人権侵害のおそれのある国への輸出禁止等の規制を課すことで、間接的に企業の人権DD等の人権尊重の取組をうながすもの。
例:
・EUのグローバル人権制裁制度
・米国の通商規制と経済制裁
【補足】※あとで調べてみる
・EU「強制労働製品流通禁止規則案」(2022年9月公表)
・米国「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」(同法に基づく輸入禁止措置は2022年6月に施行)
・カナダ「サプライチェーンにおける強制労動と児童労働との闘いに関する法律の制定および関税率の改正法」(2023年5月公布)
(出典:牛島総合法律事務所News Leter 2023年7月5日)
3. 海外の法制化の流れにどのように対応していくか
先ほどの本ではことあと、海外の法制化についてもう少し詳しく説明した後、日本企業における実務上の課題に入っていくのですが、このnoteではまず「海外の法制化の流れにどのように対応していくか」の根本となる考え方の部分を確認しておきたいと思います。
参照したのは、西村あさひ法律事務所でビジネスと人権を専門にしておられる弁護士さんとの対談です。
土屋
企業持続可能性デューディリジェンス指令(案)(CSDDD)や現代奴隷法など、人権について海外、特に欧州で法制化が進んでいます。そうした流れに、日本企業はどう対応していけばいいのでしょうか。
湯川
CSDDDやドイツのサプライチェーン・デューディリジェンス法、現代奴隷法など、種類はたくさんありますが、やることは結局、すべて同じです。根本的には法律に固有の人権に対する特別な要求事項があるわけではなく、「指導原則やOECDのフレームワークで人権DDを実施しなさい」ということと理解していますが、ここを勘違いされている企業も多いようです。
「やることは結局、すべて同じ」と聞いて少しほっとしたのもつかのま、すぐに打ちのめされました。。。
根本的には法律に固有の人権に対する特別な要求事項があるわけではなく、「指導原則やOECDのフレームワークで人権DDを実施しなさい」ということ
要は「自分たちで考えて必要なことをやれ」という話なのですね(Oh…)。
私、以前にもnoteで人権について学んだことをまとめ、以下のように書いたことがあります。
企業が守るべきなのは「国際的に認められた人権」
その基本原則は国際人権章典とILO宣言に定められている
ただしこれらを守れば事足れりとするのではなく、企業はそれぞれ自社に関連する人権とは何なのかを考え対応していかなければならない
これが簡単ならば苦労しないよ、ということでガイドラインを求める動きがあったことも記憶しています。
さて、私みたいな考え方をしてしまう人は他にもおられるようで、この対談では次のような懸念が表明されていました。
湯川
(中略)同時に、不安を感じることもあります。それは、人権課題が法務・コンプライアンス領域と捉えられた時、指導原則の条文だけを読んで法律やマニュアルのように捉えてしまうことです。そのような読み方は指導原則の考え方とは必ずしも同じではないので、どうしても読み違えをしてしまう。これは非常に危険です。
土屋
危険な事例とはどのようなものだったのでしょうか。
湯川
たとえば、指導原則では「公表」が求められていますが、それを「統合報告書やサステナビリティレポートでどうやって記載するか」と矮小化されて理解されることがあります。指導原則で求めているのは、ライツホルダーへの対応についてライツホルダー、あるいは関連ステークホルダーとの関係できちんと周知することであり、必ずしも「ウェブサイトに載せなさい」などといった形式的な話でとどまるものではありません。形式的な対応を重視するとこのような話が増えそうで、そこは気をつけなければいけないと思います。
ああ、これはありそうです。
指導原則で求める「公表」が
統合報告書やサステナビリティレポートでどうやって記載するか
ウェブサイトにどう記載するか
の話にすりかえられてしまうこと、大いにありそうです。
そこが課題であることを心にとめつつ、次回以降のnoteでは
欧州域内で一定の売上があれば日本企業にも適用がある人権DD義務指令案(CSDDD)
企業が人権への配慮を怠った場合に想定されるリスクの例
企業はハードロー化を求めているのか、いないのか
日本企業における実務上の課題
について調べて書いてみようと思います。
続きはまた明日。
以上、サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・38日目(Day38) でした。
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