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フェムテックよりも先にリプロダクティブ・ヘルス/ライツの話が来てほしいなと思うのです


女性の離職を防ぐ鍵として期待されているフェムテック


経済産業省は今、「働く女性のライフイベントに起因する望まない離職等を防ぎ、中長期的な企業価値の向上を図るべく、フェムテック(注1)の利活用を推進」しています。

経済産業省で「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」事業を担当している方のインタビューでは次のように語られていました(注2)。

女性にはさまざまなライフイベントがあり、その度に悩みが訪れますが、周囲に共有できず一人で抱え、何かを諦めたり我慢してしまう女性が多いのも現状です。みんなでもう少し課題を共有して、個人ではなく社会として、組織的に女性の健康課題を解決することで、女性の就労継続につなげていくことができるのではないか。そうして立ち上がったのがこのプロジェクトなんです。

日本のジェンダーギャップ指数は、146カ国中116位(※1)。なかでも経済分野は女性の参画が進んでいません。就労者に占める女性の割合は半数近くになってきていますが、管理職に占める女性の割合はまだまだです。ここをいかに増やしていくかという命題のもと、これまでも『なでしこ銘柄』(※2)の選定や、民間企業の女性リーダー候補を対象とした研修事業などを進めてきました。そしてさらなる一手として、女性の健康課題に着目し、その課題を取り除くことで女性が活躍できる環境を実現させる別の角度のアプローチに挑戦することにしました。

出典は(注1)参照


フェムテックは主に3つの分野で展開


令和5年度の「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」に採択された事業名を見ると、フェムテックは主に、次の3領域で展開されているようです。

  • 月経

  • 妊娠/不妊

  • 更年期


令和5年度フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金採択事業

出典は(注3)参照


女性のライフイベント…というよりは、女性特有の体調の変化をテクノロジーの力でなんとか(快適に)コントロールして、あるいは乗り切って、仕事を続けられるように…といった活用法が主体でしょうか。


「絶対的プレゼンティーズム」の改善傾向はみられるようですが


日経ESGの記事によれば、経済産業省の実証事業では、妊婦支援や不妊治療相談、骨盤底筋トレーニングなどの19事業でユーザー1037人に利用前後のアンケートを実施しところ、自らの普段の仕事ぶりを主観で評価する「絶対的プレゼンティーズム」で改善傾向が見られたのだそうです(注4)。


プライバシーの問題には注意が必要


一方で気になるのは、月経トラッキングアプリやホルモンモニタリングデバイスなどの個人の健康データや、妊娠・出産を望む・望まないなどの意向などのプライバシー情報です。

フェムテック・フェムケア”市場”と言われるぐらいですから、企業も積極的です。すでに「データの利活用により女性のQOL向上をめざす」「フェムテックで女性の健康管理の効率化」などを掲げて活動を始めている企業(グループ)もあり、少し心配になります。

冒頭でご紹介した経産省の方のインタビューには

男性の理解や、社会として、女性の健康に向き合うという機運を高めることも同時に必要と感じています。

とありましたが、女性特有の健康課題について男性の理解を深める施策は未実施の企業が多いという調査結果(注5)もあり、少なくとも現状ではフェムテックが「女性を(健康状態をなんとかして)働かせる」「取得したデータを活用して経済効果を出す」という方向で使われているように、私には見えてしまうのです。


月経や妊娠/不妊は本来、人権の問題のはず


上記のような文脈でフェムテックが語られる時、そもそも月経や妊娠/不妊は、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、つまり人権の問題であるということが意識の外におかれてしまうような気がしてなりません。

結婚をするのか、しないのか。
子どもを持つのか、持たないのか。
その前提として、望めば子どもを持てる健康状態を保つこと。
あるいは、どんなライフプランを描き、実現していくのか…

そういったことを「人権」としてしっかり認識し、女性一人ひとりが自分の健康と権利、選択肢を守り、育てていけるようにすることが最初に語られるべきではないでしょうか。


実は私、先日、ちょっと信じられない話を耳にしました。

大学受験指導に熱心なことで知られている進学校で、女性教員から高校生に向けて「先輩たち(=すでに大学に進学した高校の卒業生)は、生理不順になるぐらい勉強を頑張っていましたよ」と、武勇伝のように語られたというのです。

高校生といえども、まだ子供です。なかには「素直に」教員の言葉を受け止めて「生理不順になるぐらい勉強をがんばらなければならない」と認識してしまう生徒がいないとは限りません。この語り方は完全にNGだと私は思います。

ここまでの極端な例は稀だとしても(心からそう願っています…)、日本の学校教育でリプロダクティブ・ヘルス/ライツについて、人権の観点からきちんと教えられているかというと…自信がありません(少なくとも教科書を見る限りでは…)。

女性が学校を卒業し、社会人になってフェムテックの話をされるよりも前に、これが人権の問題であることを知っていてほしい。残念ながらそれがかなわない現状があるのなら、せめて「フェムテック」を「活用」の文脈だけで語らないでほしいと、私はそう願ってしまうのです。

***

以上、サステナビリティ分野のnote更新1000日連続への挑戦・32日目(Day32) でした。それではまた明日。



(注1)フェムテックとは、Female(女性)とTechnology(技術)をかけあわせた造語で、女性特有の健康上の課題を技術の力で解決する商品やサービスを指します。出典は日経電子版記事「が期待されているようですがフェムテック、女性が使える時間の増加に期待

(注2)出典:メトロポリターナトーキョー 2022年11月28日「“フェムテック”というムーブメントが加速しているワケ[フェムトーク]

(注3)「経済産業省 令和5年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」における 補助事業者の公募結果の公表(2023年8月1日更新)

(注4)出典:日経ESG  2023年「生産性低下や離職、昇進辞退を回避
フェムテック、3分野に光明

(注5)『月刊総務』編集部 2021年12月23日「女性特有の健康課題を問題視するもセクハラを心配する声。フェムテックの活用に6割強が興味あり


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