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「美術館女子」について一考

今、読売新聞オンラインで掲載されている企画「読売新聞美術館女子 東京都現代美術館×AKB48チーム8小栗有以」がネット上で猛烈に批判されているそうだ。

同企画のサイトは以下の通り。

この企画者は、美術館連絡協議会(美連協)と読売新聞オンライン。では、美術館連絡協議会とは、何か。

以下、上記のサイトより引用。

全国の公立美術館が連携を図り、芸術、文化の向上および発展に資することを目的に、1982年12月に設立されました。読売新聞社と日本テレビ放送網等の呼びかけに賛同した35館で発足しましたが、現在は、47都道府県の公立美術館約150館が加盟し、全国的に活動を展開しています。

ちなみに、同協議会の事務局が、読売新聞本社内にある。

さて、この「読売新聞美術館女子 東京都現代美術館×AKB48チーム8小栗有以」に対する批判やその理由について、以下の毎日新聞、朝日新聞、美術手帖が記事を掲載している(順不同)。

上記の三つの記事の中で、共通に取り上げられている問題が「この企画の『美術館女子』という表現がジェンダー・バランスの配慮に欠けている」という点だ。ざっくり言ってしまえば、「若い女性=無知という先入観」→「美術館女子」という考えが女性蔑視である、ということのようだ。

そして、実際に「読売新聞美術館女子 東京都現代美術館×AKB48チーム8小栗有以」を見た時の私の印象は、今のご時世では、これもありなのかな、だった。

個人的にジェンダーの問題に対して非常に関心がある(西洋美術の世界は、ジェンダー・バランスが不均等この上ない)。しかし、こういった「アートを身近にする」あるいは「アートをわかりやすくする」ために、美術とは関係ないアイドルを採用することは、よくある。

例えば、男女問わず、人気タレントを展覧会アンバサダーに任命することは、珍しくない。そして、そのアンバサダーは、展覧会の内容がルーヴルだろうがナショナルギャラリーだろうが(誠に申し訳ないが)「美術を学んでこなかった」方々が多い。

そして、「美術館女子」という表現も、歴女(歴史女子)や仏女(仏像女子)の流れやノリで考案されたのだと推測される。

一方で、私は、今回の企画の舞台が東京現代美術館が舞台であった点に注目した。

実は、10年前に以下のような本が出版されていたのである。

この『女の子のための現代アート入門―MOTコレクションを中心に』(2010年、淡交社)は、当時、東京都現代美術館のチーフキュレーターだった長谷川祐子氏の著書だ。

もし、前述の「美術館女子」で不快に思われる方は、『女の子のための現代アート入門』という題名にも気になるかもしれない。というわけで(当方もこの本を持っているが、現在諸事情で自分の本棚を使えないので)Amazonの同著の説明文を引用する。

東京都現代美術館が収蔵品をつかって現代アートの流れと楽しみ方を解説した入門書。「女の子」というキーワードは親しみやすさやアートの日常性を強調したもの。本文は、国際舞台で活躍する同館チーフキュレーター長谷川祐子氏が執筆。
「美術館は感性のエステサロン」と唱える著者が、1950年から2010年までの作品約60点をとりあげ、「顔」「物語」「リアル」「宇宙」など、わかりやすい切り口で語る新スタイルの入門書。アートはもはや特別な存在ではなく、ファッションのように自分の日常にとり入れるもの。女子たるもの(男子ももちろん!) アートを通じて知性と感性を磨き、美しくなりましょう。

ちなみに、長谷川祐子氏は、現在、東京都現代美術館参事、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授をされている。

今回の読売新聞オンラインの「美術館女子」は、上記でも引用した長谷川氏の『女の子のための現代アート入門』のキーワードである「女の子」と共通点があるのだろうか。もう一度『女の子のための現代アート入門』のアマゾンの説明文から以下を引用する。

「女の子」というキーワードは親しみやすさやアートの日常性を強調したもの。

もちろん、現在長谷川氏が、この本のタイトルについてどう思っていらっしゃるのか、わからない。けれども、やはり、この「女の子」の定義もジェンダー的視点で考察するとアウトになるのだろうなあと思う。

でも、本当にアウトかなあとも思う。正直いって、インスタ映えする美術館でアート入門者である小栗有以氏が楽しいと思うならば、それでいいじゃないかと思う。彼女の言葉は、ひとりの鑑賞者として正直だったし、私は好感を持った。

一方、男女問わず人気のタレントや俳優を展覧会アンバサダーにする思考の方が、どうなのかなあと思う。

あまり考えたくないけれども、アートの世界は、男女関係なく一見「美術がわからない」人にリードしてもらうと「わかりやすい」「身近に感じる」という構図がマスメディアや出版業界に存在しているようにみえる。

つまり、私は、今回の「美術館女子」の問題の根源は、アートに対して「わかりやすいことを求めている」側と、アート入門者は「わかりやすいことを求めている」と思い込んでいる側にあると思う。そこにジェンダーの問題が絡んでくるわけだ。

上記の美術手帖の記事によると、今回の読売新聞オンラインの記事に対する批判や意見を、企画者である美術館連絡協議会と読売新聞は、重く受け止めて再検討するそうだ。

私個人としては、AKB48の男女ファンの「現代アート入門」として考えれば、悪くない企画だと思うんだけれども。。ね。


*ヘッダー画像は、「みんなのフォトギャラリー」より#東京都現代美術館で、ちーぼーさんからお借りしました。ありがとうございます。