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ホクレア号②星、雲、海、鳥の動きを読む

ナイノアの独習は続いたが、最後の仕上げは1人では無理だった。1979年の晩春、3年ぶりにサイパン滞在中のマウに会いに行き、2人は互いに気持ちが通っていることを確認した。4か月後、マウはハワイイにやってきて、星だけでなく、雲の読み方、海面の色の見方、鳥、様々な知識を、ナイノアに伝えた。

ナイノア・トンプソンとマウ・ピアイルグ、1998年

1980年、ナイノアは航海士としてハワイイ~タヒティ往還に成功。1985年~1987年は、タヒティ島、クック諸島、ケルマデック諸島を経て、ポリネシア三角形の南端アオテアロア(ニュージーランド)へ。1992年は、クック諸島ラロトンガ島に、太平洋の島々のカヌー17隻を集めて開催した第6回パシフィックアーツフェスティバルに参加。

1992年、ラロトンガ島に集まった太平洋の島々のカヌー17隻

そして1995年は、「ホクレア」をはじめハワイイの3隻、ニュージーランドの1隻、ラロトンガ島の2隻がタヒティ島に集結後、マルケサス諸島ヌクヒヴァ島からハワイイへむかう歴史を再現する航海。ナイノアに航海術を教えたサタワル島のマウ・ピアイルグも、「ホクレア」に乗ってハワイイへ帰ってきた。

1995年、ハワイイへむかう航海を再現するためヌクヒヴァ島に集まった6隻のカヌー

ポリネシアの多くの島がそれぞれ遠洋航海に耐えるカヌーを持つようになったきっかけは、やはり何回にもわたる「ホクレア」の航海であり、それに触発された太平洋航海ルネッサンスとも呼ぶべき大きな運動だった。いくつもの島が自分たちでカヌーを造っただけでなく、伝統航法の技術を持つ者を養成した。

1995年、ホノルルのママラ湾沖に到着した6隻のカヌー

1995年5月13日、ケエヒ海浜公園で6隻のカヌーを迎える儀式。
砂浜に並ぶ乗組員たちは「礼儀正しい歓迎に値する者だ」と腕を振り上げ大声で力を誇示。(ハカ)
迎える側の屈強な男女は「ここはつまらぬ者の上陸を許さない土地だ」と唱える。
この擬闘を経て、遠来の客は心のこもった歓迎を受ける。

ケエヒ海浜公園でハカを踊るニュージーランドのテ・アウレレ号の航海士ジャッコ・サッチャー

式典でのマウ・ピアイルグのスピーチ。
「アロハ。航海の技術がもう一度生まれ直して、私たちは幸福です。この技術を受け継いでくれる若い人々がいるのは、とても運のいいことです。これからも子供たちに技術を教えて、この先この技術が二度と死ぬことがないようにしていきたいと願います。ありがとう」

1999年、マカリイ号の前に立つマウ・ピアイルグと彼の息子セサリオ・セワルール

ナイノアは語る。
「自分たちが信じていたことを実現できたのは嬉しいが、そのために沢山の人々の力を結集できたことはもっと嬉しい。先祖たちの誇りと自負を受け継ぐ若い人々が育つよう、健全な共同体を維持することが、この航海の本当の目的ではないか。このカヌーに乗っていく次の世代を見守りたい」

2000年、ホクレア号を操舵するナイノア・トンプソン

池澤夏樹は書く。
「ハワイイはアメリカ合州国の一つの州だが、いつになってもハワイイという土地だ。アメリカの一部であることより、かつてハワイイ人が優れた文化を維持していた場所で、大勢の移民の流入にも係わらず今もその伝統を受け継いで次代に伝えようとしていることの方が大事なのではないか」

ハーブ・カネが描いた航海士(ナビゲーター)

池澤夏樹著『ハワイイ紀行』出版後も、「ホクレア」の航海は続く。1999年はポリネシア三角形の東端ラパ・ヌイ(イースター島)へ。2004年は日本人クルーを採用。2007年はナイノアに航海術を教えたマウ・ピアイルグの住むサタワル島などミクロネシアの島々を経て、日本の沖縄、長崎、広島、横浜など14か所に寄港。

2007年、ホクレア号の日本列島での航路

2013年~2019年は「人が自然と共に生き残るには、伝統技術と先端技術を橋渡しし、共有し、学習する必要がある」とのメッセージを届けるために、太平洋~インド洋~大西洋~カリブ海~太平洋をめぐる世界一周航海を実施。245人の乗組員が18か国150か所の港を訪れ、10万人の人々とつながることができた。

世界海洋デーの2016年6月8日、ニューヨークの国連本部とホクレア号を背に記念撮影

「ホクレア」は初航海から50周年を迎える2026年をめざし、姉妹カヌー「ヒキアナリア」とともに2022年~2026年、ハワイ⇒北米アラスカ⇒アメリカ大陸沿岸⇒タヒチ⇒ニュージーランド⇒オーストラリア⇒太平洋諸島⇒日本⇒ハワイと46カ国345港をめぐる環太平洋航海を行う計画。
https://www.allhawaii.jp/hokulea

ホクレア号の環太平洋航海。2023年に出航し、2027年に日本へ寄港する予定

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