近頃、みんな他人に厳しくないか?~大坂なおみ選手に対する意見について思うこと~
こんにちは、すしです。
先日こんなニュースが世間を騒がせました。
大阪なおみ選手は、メンタルヘルスを無視した質問をうける会見を拒否することを表明し、実際に取材会見を拒否しました。それに対し、主催者側から罰金1万5000ドルを科され、より多額の罰金や将来的な4大大会の出場停止につながる可能性もあるという勧告もされました。
それを受けて、彼女はうつ病を公表するとともに、彼女は大会を辞退を発表しました。また、しばらくの間コートを離れて療養する決断をします。
この大坂なおみ選手の一連の行動に、「幼稚で大人げない」とか「プロなんだからお金や信用を無視するな」などの厳しい意見を言っている人たちがたくさんいました。
また、うつ病を公表したときには「後出しで同情を引くのはやり方が汚い」といった声も上がっていました。事前に、「メンタルヘルスを考慮した結果として取材会見を行わない」と言っているにも関わらずです。
僕は悲しい気持ちでいっぱいになりました。
なぜ彼女はこの決断をしたのか。
この問題を見ていない人があまりにも多いように思えます。表層的な結果だけしか見ずに、それを引き起こした原因を無視しているのではないでしょうか。
事実として、彼女は自分の尊厳を傷つける質問を数えきれないほど会見で受けてきました。彼女自身の言葉を借りるなら、メンタルヘルスを全く考えない無神経な質問です。
その積み重ねが、今回の彼女の決断を生みました。
彼女がこの選択をした理由は、彼女が幼稚だからでも、メンタルが弱いからでもありません。数えきれないほどの傷を負っているからです。
僕は、このニュースが流れてきたとき、どれだけ彼女が辛い思いをしてきたのかを考えて、胸が苦しくなりました。
仕事の一部とはいえ、自分の尊厳に刃を向けてくる人たちが待つ場所へ行きたくもなくなるわ、と思いました。実際に、何度も何度もその刃は彼女の心へ刺されてきたでしょうし。
僕が想像できる痛みなど、彼女が実際に感じた痛みの数%にも満たないでしょうが、それでも想像しただけでしんどいです。
しかし、Twitterやニュースのコメントなどを見ると、世間の多くの人はそうは思っていないらしい。
どうやら、いかなる理由があれど、プロとしての責務を果たすべきらしい。いくら自分の尊厳を傷つけられようと、刃を向けられていようと、責任を放棄するべきではないらしい。
自らに向かってくる刃に耐えることも仕事の一部だとされ、避けても反抗しても批判される。
僕はその現状を見て、恐ろしい世の中だと思ってしまいました。恐怖すら覚えました。
人としての尊厳を守るための決断ですら、批判の的になってしまうのです。「こどもっぽい、大人になれ」と「プロとしての責任を果たせ」と「わがままだ」と言われてしまうのです。
もちろん、この決断をすることで、多くの人に迷惑が降りかかることになります。特にプロスポーツとなれば、より多くの人や組織が関係しています。スタッフもメディアにも、そしてスポンサーにも多大な迷惑がかかります。信用も失うことになるでしょうし、関係者にも多大な損失が出るでしょう。
しかし、大坂なおみ選手は、収益などのお金のことも、多くの人に迷惑をかけて失うことになってしまう信用のことも、わかったうえでこの決断を下していると思います。
プロスポーツで頂点に立つ人間が、自分を支えてくれている人たちの存在を無視していたり、そもそもプロスポーツの商業構造を理解していないとは思えないのです。また、自分の尊厳を傷つけられ続けてきた彼女が、他人のこととはいえサポーターのことを考えていないようにも思えません。
考えられるとしたら、
それらを考慮してもなお、自分の尊厳を守ることを決断した。
少なくとも、僕はそう思います。
それは、自分勝手とかそういう話ではありません。
「自分をプロのテニス選手たらしめてくれている全てのこと」と「今まで傷つけられてきたことや今傷つけられていること、そしてこれから傷つけられること」を考えたうえで出した、とても重く、とても深い結論です。
決して表層だけで完結できる問題ではありません。
そういえば、いつか退職代行が騒がれていたときがありました。
退職代行とは、労働者が会社を退職したいと考えた場合に、労働者に代わって退職の処理を行ってくれるサービスです。
この時も、「そんなことをする奴は社会人失格だ」とか「そういうことするやつはどうせ仕事ができない」とか、とても厳しい意見が多かった印象があります。
同じではないでしょうか。
なぜ、彼ら彼女らは自分で退職処理を行わなかったのでしょうか。
中には鼻くそをほじくりながら、なめ腐った態度でフェードアウトする人もいるでしょう。しかし、多くの人はそうではありません。
多くの人は、退職届を提出することも、会社に行くのも、同僚に会うのも、できなくなってしまったのではないでしょうか。会社に多くの迷惑がかかることもわかったうえで、それでもなお会社に赴くことさえできなくなってしまったのではないでしょうか。
そういうことですらできない状態になってしまったから、わざわざ高いお金を払って退職代行サービスに頼んだのではないでしょうか。
それは、甘えなのでしょうか。その行動は、根性のない腑抜けのそれなのでしょうか。
果たして、本当の問題は、彼らが退職代行サービスを利用したことなのでしょうか。
僕はそうは思いません。
そこに「後出しだから印象が悪い」とか「メンタルが弱い」とか、そんなことは関係ありません。なぜなら、それすらも考えられないような精神状態になっているからです。
退職代行サービスは、その原因が積み重なって、表層に現れてきた結果でしかありません。
今回の大坂なおみ選手の決断も、同じことだと思うのです。
もちろん、理由があれば倫理に反する行動や誰かに迷惑をかけることが許されるわけではありません。
しかし、それでも僕は、人としての尊厳や人権は何よりも優先されるべきものであってほしいと思います。
あなたは、自分の子どもが学校に行かなくなってしまったら、その不登校という結果だけで、自分の子どもを悪いと思うのでしょうか。
違いますよね。
もしかしたら、いじめられたのかもしれません。もしかしたら、九九で躓いて算数についていけなくなり惨めな思いを経験したからかもしれません。
確かに不登校ということだけを見れば、それは決してポジティブなことではないでしょう。しかし、もし、それが自分の身を守るための行動だったとしたら、僕はそれは許してあげたいです。
許される世の中であってほしいです。そして、その人に寄り添って肩を貸し、また立ち上がって歩けるように手を差し伸べる人が多い世界であってほしいです。
商業構造の一部である会見を拒否すれば、関係者に多大な迷惑や損失が出ます。急に退職すれば、誰かがその穴を埋めなければならなくなるでしょう。不登校だって、親や学校、友人に心配をかけてしまいます。
これらは、結果だけを見れば、決して褒められる行動ではありません。しかし、それらを実行した多くの人たちは、自分を身を守るためにそれらをしています。
本当の問題は、彼ら彼女らの尊厳を著しく傷つけているものが存在しているという事実です。この存在が、結果的に多くの人にネガティブな影響を与えることになる彼ら彼女らの選択の原因です。
しかし、少なくともTwitterやニュースサイトに書き込みをしている人の多くはそうは思わないということもまた事実です。
僕は、そのような思考の人が多く存在することが残念でなりません。
たくさん傷つけられて、血だらけになりながら耐えて。逃げれば無責任と言われ、立ち向かえば幼稚と言われる。
じゃあ、どうすれば人としての尊厳を守れるのでしょうか。
心の病を患う人も自殺者もそりゃ減りませんよ。だって、強い精神を持つ人しか生き残れないんですから。そうじゃない人は、傷つけられた自分を守ろうとしても、なお刃が飛んでくるのですから。
そりゃ減るわけありません。
最近の世の中は、あまりにも他人に対して厳しい視点を持っているように思えます。その人の経験したことや傷を無視して、外野から批判している人のなんと多いことか。
僕は、誰か傷ついている人がいたら、「今まで辛かったね。」って言ってあげられる人間になりたい。膝をついている人に寄り添った行動が出来る人間になりたい。そして、そういう人が多い世界であってほしい。
個人的な話になるのですが、僕には会社に入って仲良くなった先輩がいました。彼は適応障害を患い、去年の夏に、自らの人生に幕を下ろしました。
僕は先輩に、逃げてほしかった。もっと自分を大切に思ってほしかった。自分を守ってほしかった。
確かに世の中は、お金や信用で成り立っています。僕がこうして生きていられるのも、働いてお金をもらっているのも、全て誰かのおかげです。親や友人、彼女、会社の人、すべての人のおかげで、僕は生きていられています。それは紛れもない事実です。
会社や学校もすべての組織は、多くの人のお金や信頼、努力や頑張りによって動かされています。それらは決して、その人たちを抜きにして、成り立つものではありません。
しかし、それを十分承知の上で(僕が理解している以上に、そうなのでしょうが)、僕にはお金や信用が、人の尊厳や命より大事だとは思えませんし、そうであって欲しくはありません。
どんなに多くの迷惑があろうと、どんな理由があろうと、それらは蔑ろにされてはいけないものだと思っています。
綺麗事だと思いますが、綺麗事であって欲しいのです。
これは僕の意見というか、願望です。
たぶん、このnoteにも批判が寄せられると思います。もしかしたら、無反応という反応かもしれません。
でも、それでもいいです。
別に僕は今回の大坂なおみ選手の決断に否定的な意見を持つ人を否定したいわけではありません。ただ、その意見がマジョリティな世の中は、とても生きづらそうで、弱者に優しくないと思っただけです。
そして、世界はそうであってほしくない、と思っただけです。
もし、数時間で書きなぐったこの駄文が、誰かの思考のきっかけになれば幸いです。
改めて、勇気のある決断を下した大阪なおみ選手に、多大なる敬意を表します。
傷だらけにされた彼女の心が、療養によって少しでも癒えることを祈っています。
それではまた!
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