大迫傑の“Sugar Elite”ってなんだろうか。を考えてみる。

男子3000m、5000m、マラソン日本記録保持者の大迫傑選手が本日(7/15)、自身のSNSでエリートチーム“Sugar Elite”の発足を公式に発表した。

“Sugar Elite”の名前の由来は?

Sugarは砂糖という意味があるが、彼の高校時代の大先輩でエリートランナーの“佐藤”悠基選手がいる。そして、男子1500m(佐藤清春)、5000m(佐藤秀和)、10000m(佐藤悠基)の高校記録保持者の名字は3人とも“佐藤”であり、彼らは超エリートランナーたちだ。

という、どうでもいい冗談はさておき、彼がコーチやチームメイトに“Sugar”と呼ばれていることに、Sugar Eliteは由来する(だろう)。

元々、Suguruという名前は英語で発音しにくいらしく「Sugarというニックネームになった」という話は、そこのあなた(たぶん大迫ファン...)であれば知っている話だろう。

ちなみに、彼と同じトレーニンググループのドーハ世界選手権女子5000m銅メダリストのKonstanze Klosterhalfenは“KoKo”(ココ)と呼ばれている。ニックネームは大切だし、それが後にチームの名称になることもある、ということは“Tinman Elite”のコーチティンマンが教えてくれた。

あれ、Sugar EliteとTinman Eliteの名前と由来がなんとなく似ているな...(これはたまたまだと思うけど)


Eliteってなんだろう?

さて、本題に入ると、ここでのSugar Eliteのエリートとは、エリート集団の意味だろう。OTC EliteやTinman Eliteのエリート。ちなみにBTCのプロの下部チームはBTC Eliteという名称である(ナイキの社会人チーム)。アメリカのプロの中長距離チームが好きなそこのあなたは当然ご存知だろう。

また、そこのトレーニングマニアのあなたはSweat Eliteというサイトをご存知かもしれない。世界の中長距離で成功したエリート選手のトレーニングプログラムが学べる。とにかく、世界レベルで成功を収めたかったら、名前にエリートを入れるのはとても有効だ。

例えば、所属がAsahi KaseiとかToyotaとかHondaだと、その長距離チームが強いのは日本人は知っているけども、海外の人からしたら名前だけではわからない。

でも、OTC EliteやTinman Eliteに強い選手がいることはアメリカの陸上好きならみんな知っているし、Sugar Eliteも確かに強そうな選手がいるだろうと思えるのかもしれない。だから、名前は重要だし、Eliteを入れるのは結構重要なことである。

なぜなら、Sugar Eliteは世界で戦う選手を輩出することを目指しているのだから


私がイメージしたSugar Eliteの全体像

ということで、Sugar Eliteは“強い選手”が所属し、切磋琢磨するというチームになるであろうが、第1弾として選抜の夏合宿を行うようだ。ある程度の競技力のある大学生が合宿の参加対象ともあり、所属大学の監督に許可を貰わなければ、所属大学のチームの合宿とバッティングする可能性も多いにあるだろう。

強豪校同士の合同合宿、都道府県の陸協での合同合宿や、地方高体連の合同合宿、日本陸連の合同合宿などいろいろな種類の合同合宿があるが、日本の大学生を対象にした個人の選抜合宿はあまり聞いたことがない(大昔はあったのかもしれないけど)。

このような学生の選抜合宿のスタイルで私が最初にイメージした“Elite”といえば以下の「ナイキエリートキャンプ」である。

これは、アメリカのナイキ本社に選抜合宿という形で全米の高校生の選手を招待するというもの。この合同合宿は2010年から毎年夏に行われているが、毎年全米トップクラスの中長距離選手がこの合宿で集結する。

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(【出典:Nike Elite Camp】)

例えば、この5年間でアメリカの高校生で3000mを7分台で走った選手は2人いるが(ドリュー・ハンターとニコ・ヤング)、その2人ともこのナイキエリート選抜合宿に参加している。

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(2019年ナイキエリート中長距離選抜合宿の男女メンバー:後列一番右がニコ・ヤング【出典:Nike Elite Camp】)

そして、この合宿に参加すると、記念品としてELITEランシャツがプレゼントされる。

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(出典:Nico Young Instagram

そのランシャツはその後、貰った選手が公式戦で着用したり、T.Tなどでの「お気に入りの1枚」になったりする(ヤングはこのランシャツで2020年2月のミルローズゲームの室内3000mで7:56.97の全米高校記録を樹立した)。

そして、この合宿はナイキ本社で行われているので、当然大迫傑はこの合宿の存在を知っているのだろう。彼の今回の第1弾のイメージとしてはこんな感じではないだろうか。

ただ、Sugar Eliteの第1弾合宿にナイキが協力しているかどうかは現時点では私にはわからない。

(2019年のナイキエリートキャンプではBTCのジェリー・シューマッカーコーチが全米の高校トップ選手を指導した)

ちなみに、BTCやTinman Eliteは毎年ファン(そのほとんどが中高生)を対象に合宿を行ったりもしている。こういったアメリカのトップチームがファンやジュニア選手との交流を行っている点は見逃せないし、こういったファンとの接点があるチームは総じて人気が高い(特に学生などのティーンネイジャーから)。


ジュニア指導に力を入れている大迫傑が目指すもの

東京都江戸川区に拠点を置く、ジュニア陸上クラブチームの「清新JAC」出身の大迫傑。高校は佐久長聖、大学は早稲田大、実業団の日清ホールディングスでの1年間を経てアメリカに家族と共に移住。

彼の陸上のルーツは紛れもなく、清新JACでの厳しい練習にある。そのようなことが関連しているのかは定かではないが、彼は日本のレースに出場した後には、ジュニアへの指導・ワークショップをコンスタントに開催してきた。

また、日本だけでなく台湾でもワークショップを開催するなど、ファンとの交流に関しても積極的に行ってきた。2018年のシカゴマラソンでマラソンの日本記録を更新する前からも「ジュニア世代への指導」というキーワードで大迫傑は活動を行ってきた。

そして、2019年12月から2020年2月下旬までのケニア合宿でも、現地でのワークアウトを通じて、将来のケニアでの日本の中長距離選手の育成プロジェクトの構想を持っていることを東京マラソン後に明かした。

私も昨年の秋にケニアのイテンに行ったが、彼が合宿で宿泊していた宿舎に宿泊し、彼が練習していたトラックで走った。

ケニア(というかイテン近辺)の練習環境は中長距離選手にとってはシンプルで良い。

日本を含む経済国の大学の練習環境ように、時には与えすぎも良くないが、やはり「シンプル」であるのが1番良い。ないものは、自分の頭で考えて“工夫”すればいいからだ。

ただ、彼はケニア合宿での様子について、ボルダーでの合宿とあまり変わらない、と言っているが、私もケニアに行ったことがあるのでアメリカと比較してみると、そんなことはなく、彼だからこそケニアという異郷の地に初回ですんなり適応できたのではないかと感じる。

どちらかというと、大迫傑は自分で「未開の道を切り開いてきた選手」なのだ。

だから、日本の若い世代に対して、今ある環境以外にも他の選択肢を自分で切り開いて欲しいという願いを込めてSugar Eliteを立ち上げたのではないかと、私は感じている。

ということで、今後のSugar Eliteの活動に注目!!

(彼が最も最初に世界への道を切り開いたのではないか、と私が考えているレースを最後に以下に挙げたい)

2014年リエティ(イタリア)での
IAAF World Challenge,3000m7:40.09(日本新記録)
大迫傑が最初の日本記録を樹立したレースである。
(その後彼は5000mとマラソンで日本記録を樹立した)


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