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現在のトップレベルのトラックレースで選手が何のシューズを履いてるかは大変興味深い。その①

去年の八王子ロングディスタンスの10000mで見た光景が以下。

そして、今日のホクレンディスタンス深川大会を見て思ったのが以下。

普段の練習で何を履いて練習しているか?

レースで選手が履いているシューズは、そのレースに向けての高強度練習で「選手が何を履いて練習しているか」と密接に紐づいているだろう。

レースでVFを履いていれば、練習でももちろん履いているだろうし、スパイクに関してもそうだろう。

これは当たり前のことであるが、最近トラックレースでVFを履く選手が増えたことを考えると、練習でスパイクを履くことが減った選手が多いのではないだろうか?

(トラックレースには出るけれども、そもそもスパイクを持っていない市民ランナーも多いとは思う)


八王子LDは駅伝前

八王子LDは学連記録挑戦会と同じく、男子は基本的に10000mしか行われていないので、ニューイヤー駅伝や箱根駅伝に向けて「10000mに特化した特殊な記録会スタイルの競技会」である。

従って、駅伝に向けて選手は10km弱から23kmぐらいの距離を本番(ニューイヤー駅伝や箱根駅伝など)で走るわけだから、11月や12月にスパイクを履くような練習はほとんどないかもしれない。

とはいえ、「ニューイヤー駅伝はあくまで通過点」みたいなスタイルで、室内シーズンに向けて、レペや流しでスパイクを履いている選手も少なからずいるはずだ(松枝選手や遠藤選手あたり?)。

だから、こんなように見事に着用するシューズが分かれてしまうのかもしれないが、それだけだとケニア人選手がなぜ八王子LDでみんなスパイクを履いているのかが説明できない(彼らも多くがニューイヤー駅伝に出るのだが...)。

そういえば、ニューイヤー駅伝のインターナショナル区間では、なかなかのスピードで彼らが駆け抜けていくが、やはりVFではなくこれまでのレーシングフラットを履いている選手が日本人選手よりも多いことに気づく。

彼らにとって、2:30秒台後半で推移するペースだとスパイクや従来のレーシングフラットの方が走りやすいのかな...?


連戦にはVFが良さそう

VFを履いたことのある人なら体感しているはずであるが、VFはスパイクよりも疲労度が概ね低い(主に下腿三頭筋=ふくらはぎなど)。


スパイクのデメリットはVFよりも「血豆」ができやすい

日本選手権の時に、5000mなどで優勝者のスパイクに目をやると、そこが赤くなっていることがある。血豆である。スパイクを履いて高強度で長時間走ったことのある人なら誰しもが通る道かもしれない。

シューズの中の通気性があまりよくなく、熱を持った状態で摩擦が起こると高確率でマメができるというのが私の体験。ちなみに、ネクスト%だと通気性もかなり良いので、ワークアウトやレースの後のリカバリーを重視するなら、Next%等で走るというのもアリではないかと。

今の季節は蒸し暑くなってきているので、そういう意味ではNext%の需要が高まるのかもしれない。


レースでいきなりVFを履いても記録は出るだろう

今年の都道府県対抗男子駅伝の1区で区間新が連発したが、そこで区間1けた順位に好走した選手のなかで、その前の都大路の1区で惨敗した選手がいた。ある記事によれば、その選手は都大路の時にネクスト%を履いていなかったが、都道府県対抗男子駅伝の1区で初導入したそうだ。

もちろん、調整の過程や体調などでパフォーマンスは変動するが、彼のメンタル的にも実際にもシューズの後押しがあったことは否めない。このようにネクスト%にはいきなり走れてしまう魔法のような即効性がある(勿論、その選手がこれまでに積み重ねてきた競技力があるという前提のもとで)。

ただ、逆のケースはほとんどないのではないだろうか?

練習でVFばかり履いていた選手が、試合前にサクッとスパイクをいきなり履いて、レースでも好走するパターン。もし、そのパターンがあったとしたら、その選手はフィジカルトレーニングに注力している選手だろう。


Next%でも5000m13:20-30や10000m27:30-40は出るだろう

設楽悠太が2017年の八王子LDで27:41.97で走った時はVF4%を履いていた。

それから、現在に至るまで、10000mでサブ27:40を達成した選手でスパイク以外の選手は2019年のソンドレ・モーエンの27:24のレースぐらいではないかと思う(他にあったら教えてください)。

モーエンはその記録をもって、ドーハ世界選手権の10000mに出場したが、その時もネクスト%を履いていた。ただ、彼はその後10月のバレンシアハーフ→12月1週のバレンシアマラソンに向けての10000mだったので、先ほど説明した通り、普段の練習でほとんどスパイクを履いていなかったはずだ。

また、2017年から現在にかけて5000mでもサブ13:30より速い選手になるとほぼ全員がスパイクを履いているだろう。

実際には5000mの13:20-30、10000mの27:30-40ぐらいはネクスト%で日本人選手が出してもおかしくないと思うが、やはりその記録が出るとなれば、ほとんどがスパイク着用によるものだと思う(特に5000m)。

ただ、アルファフライのトラックレースでのポテンシャルについては今後も注視していきたい。


↑のレベル以上の選手は皆トラックレースでスパイク着用

これについては、ドーハ世界選手権の男女10000mで選手が何を履いているかを見ればわかる。モーエンはネクスト%、新谷仁美はピン付きのカスタムVFスパイク。後の選手は全員スパイク。

ただ、ナイキは数年前からドラゴンフライといった、Zoom X入りのスパイク開発をしていたので、彼らが履いていたスパイクが従来のスパイクと違うことも理解しておきたい


αフライのポテンシャルはかなりありそうだが、それでもラストのスプリント重視ならスパイク1択?(ロングスパートするなら話は別?)

先日も今日のホクレンでもアルファフライを履いている選手の好走があった。すごいポテンシャルのシューズには変わりないが、「勝負重視」という視点ではスパイクと比較してどうなのだろうか?

スプリント勝負なら、断然スパイクに分があると思いたいが、ロングスパート(例えば5000mのラスト1マイル4:05-4:10)といった戦法をとる場合には、アルファフライの方が良かったりするかもしれない(海外の選手はそれをスパイクでやるわけであるが...)。


フューエルセル5280はスパイクのようなシューズ

田中希実選手が本日の3000mで8:41.35の日本新記録を樹立。先日の1500mでも日本歴代2位の好記録を出したが、そのどちらでも彼女はフューエルセル5280を着用していた(彼女はNB契約選手)。

もともとこのシューズは、ニューバランスが、2011年大邱世界選手権女子1500m金メダリストのジェニー・シンプソンとともに開発したシューズ。

毎年9月にNYで開催される「NB 5th Avenue Mile」というロードの1マイルレースで8回の優勝を誇る彼女が「スパイクのようにロードで走れる中距離用のシューズ」というコンセプトで開発されたもの。

田中選手はトラックレースでクロカン用のスパイクを履くレースも過去にあったりと、シューズに関して色々試行錯誤したであろうが、今はこのシューズで1500m、3000mを走っているのだから、当然練習でも履いていることだろう。スパイクのようなシューズだから、彼女にとってはスパイクを履いているのとほとんど変わらないのかもしれない。


走技術の高い選手は何を履いても速い

速い短距離選手や、Two Laps TCの横田コーチなど、走技術の高い人は結局何を履いても、裸足でも速い。というか、速く走れる術を知っている。

とはいえ、走技術の高い超トップ選手がトラックレースで100m〜10000mまでで現状スパイクを選んでいるのだから、トラックレースではスパイクが現時点ではベストであるということだろう(ドクター中松シューズみたいなのが出てきたら話は別...)

ただ、VFよりもスパイクを履きこなせる(VFよりもパフォーマンスを上げれる)スキルがある選手は多くない印象。市民ランナーレベルならほぼ99%のランナーがスパイクよりもVFの恩恵を受けれるはずだ。

ただ、トレーニングの目的に応じてシューズを履き分けることは非常に大切なことだと思う(次回の記事で詳しく書きます)。


結局のところは総合力勝負

結局のところは選手の地力+シューズの総合力(そのほかの要素もたくさんあるけど)。地力が高い選手は何を履いても速い。

では、選手の地力を高めるにはどういうトレーニングやシューズを履けばいいのだろうか?

これは深く考える価値のあるテーマだと思う。


VFばかり履き続けると果たしてどうなるのか?

私は最近スパイクを履いて走るときに、余裕が作れなくなっていることを感じていた。厳密に言えば、スパイクを履いて走りながら、厚底シューズならもっと余裕をもって走れることに気付いてしまうことが苦しさになってしまうのだ。2人でそんな話をしながらアップをしたのだが、やはり彼も同じようなことを感じるそうで、トレーニングではなるべく厚底シューズは履かないようにしているのだと言う。(↑の記事より引用)

これは10000m28分台の記録を持つアマチュア選手のnoteからの引用。ここに様々なヒントが隠されているように感じる。

VFのような「パフォーマンスを高めるシューズ」と、走技術などの地力を高めるための「トレーニング用のシューズ」というのは人によっては別なのかもしれない(中にはジョグも含めてVFだけを履き続けるという上級者もいる)。


ロード用のシューズは各社が揃って新作を出し始めたので、以前のようにVF vs. これまでのレーシングフラットという構図ではなくなるだろうが、トップレベルのトラックレースで選手が何を履いているかについては、今後も引き続き注視していきたい。

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