長距離走における基礎と応用

長距離走においてレースもしくは練習で速く走ろうとしたら(つまりそれは一定のペースを維持する能力のこと)、初心者にとってはまずはゆっくりかつ、より長く走ることから始めるべきであり、総じて「速く走ろうとしないこと」から始まる。

長距離走の基本は走動作において脱力(リラックス)していることが前提にある。そして、速い長距離選手に共通しているのは、

① ランニングフォームの努力感・力感が少ないこと(無駄が少ないこと:脱力しながら効率よく前方方向への推進力を得ている)※たまに例外がいるのですが...
② 脚の回転軌道がスムーズでかつ上体も安定しており、上下動が少ない

そのようなことを考えると、長距離走においての基礎とは生理学的ないわゆる有酸素能力の向上だけでなく、走動作での上体と下肢との連動における効率性とその感覚をいかにして獲得していくか(いかにして再現性を高めていくか)ということである。

そして、獲得した感覚に対して、実際のタイムにギャップがない時こそが、状態が良いといえるのではないだろうか(感覚よりも速くなるのはまだいいにしても)。

ジョギングが基本

長距離走の基礎とはなんだ?と言われたら、それはジョグであると答える。

そして、ジョグの精度(質の高さとは、走速度の速さではない)を上げることが競技力向上に繋がると私は感じている。

よって、ジョグをリカバリージョグとしてのみ行っている長距離走者がもしいれば、もう一度、ジョグとはなんぞや?を見直してみるというのもいいかもしれない。

それを確信したのは、とある陸上専門誌での某駅伝名門校の指導者によるジョグについての記述だった(内容は以下)。

・ジョグが全体の練習量の7割近くを占める
・「ジョグを大切にする」
・集団走ではなく個人練習として行う
・リカバリージョグと有酸素トレーニングとしてのジョグを分けて考え、それぞれに目的を持って取り組む
・ジョグの質の向上が競技力の向上に繋がっている

この学校出身の選手には近年の日本選手権優勝者や、日本記録を脅かすほどの選手が数名いるが、私は幸運にもその指導者と食事をする機会に恵まれ、指導で大切にしている点について教えていただいた。

また、その翌日にはその学校の選手がどのようなジョグをしているかを実際にみることができた。そこでも、彼らがジョグを大切にしていることが観察できたが、これは、箱根駅伝で優勝するような大学の選手にも共通していることで、低強度の練習を疎かにしていないということが挙がる。

つまり、基礎を疎かにしていないのだ。


そこで、私もその日からジョグに対しての取り組み方を見直し、ジョグでは「肩の力を抜きながらスーと前方に重心移動する感覚」を、大量の反復によって養うところからリスタートし、そこでペースはあまり気にしない(すなわち時計を全く確認しない)。

結果的に、ある日はマラソンペースよりも少し遅いぐらいのペースで長い時間走っていることもあるが、これは基礎の積み重ね(反復)なのでハッキリ言って目に見えない技術練習のようなものだと考えている。

そして、この反復こそが、長距離走における各々の走動作の鋭い感覚を養うのにちょうど良い基礎練習であるのではないだろうか。

こういった感覚は多くの長距離選手がキャリアを積むにつれて獲得していくのだが、特にマラソン選手は長い時間、自分の感覚で良い動きを続けることに長けている部類の選手であると感じている。


【ジョグ】
基礎:リラックスを心がけ、ゆっくり長く(40-60分)走る ※マラソン選手はそれ以上
応用:★ ある程度のペース(Moderate / Steady)で長く(40-60分)リラックスして走れるようにする
応用:リカバリージョグ(= 回復力>リカバリージョグ)と、それ以外のジョグの目的を明確にして取り組む(★やロングランやクロカン走など)
など


シューズの基礎

私が高校1年の時に陸上を初めて、最初にStepにいった時に言われたことが「どのシューズを履くかは重要」ということである。その意味が今となってやっとわかった部分もあるが、この記事の冒頭に述べたように、長距離走を始める基礎にあたって「速く走りすぎないこと」を考慮すれば、自ずとシューズも軽すぎない1足を持つことからはじめた方が良い。

それがいわゆるジョグシューズと呼ばれるもので、ここでは、ニュートラル(クッション)、スタビリティ、モーションコントロール、ミニマリストいったシューズの種類には触れないが、まずは自分の足にあっていると感じる1足を探すところからがスタートとなるだろう(各々の足型の特徴は違うので、全員に合うシューズというのはない)。

次第にジョグを長くできるようになったら、テンポランやインターバルといった一般的練習をこなすようになってくるが、この時に生理学的要素以外にも、体(足)の機能性を高めるような1足を持っておきたい。

ピッチはシューズの重量が軽ければ自然と速くなるし、ストライドの長さはシューズのスペックによってまちまちである。

ここでは、体の機能性(足のクッション性や筋腱の強化など)を高めることによって、次第に体の使い方を覚えることでしなやかなフォームを獲得し、ストライドが伸びるということに注目したい。

そして、ピッチを高めていきながら、スムーズに出力していく動きは、どちらかというとランニングにおける技術的な動きであり、それを力任せに行うと非効率である。

従って、スパイクを履いての流しや、下り坂での流しなどで技術練習を重ねて反復することによって(それを受け止めるだけの基礎筋力がある前提で)、スムーズで努力感・力感の少ない、前方方向へ推進力を得るような良い動きを獲得していくことが望ましい。

これらの、体の機能性を高めること(基礎体力、防御反応、筋持久力を高めるような1足を持つということ)や、走動作の技術レベルを上げるということは1本の線になっている。


【ランニングシューズ】
基礎:自分の足に合う1足(軽すぎず適度なクッション性/安定性のあるもの・ジョグ用)初心者ならGEL KAYANOとかオススメ
基礎:テンポアップシューズ(テンポランやファルトレクに最適な1足・軽さと反発性、安定性、フィット感のバランスの良いものをチョイスする)
応用:厚底カーボンシューズ(パフォーマンスの最大化)
応用:レーシングフラット / スパイク(体の機能性を高める / ピッチを高める技術練習に最適)
など


厚底時代だから重要にしたいミニマリストシューズ

東アフリカ系のランナーが長距離走で(若年層から)圧倒的に優位な位置にいるのは、貧困層における幼少期からの大量のベアフットウォーク / ランニングの積み重ねが最大の要因だと言われている。

その前提条件があり、彼らには加えて筋繊維の遺伝的要素(遅筋優位)、社会的なランニングの優位性(ランニングで稼げるというマインド)、良いトレーニンググループ、高地での生活といった要素が複合的に絡んでいるので、その優位性は揺るぎない。

日本や欧米のような自動車や電動自転車などの発明に囲まれた経済国では、幼少期からの大量のベアフットウォーク / ランニングに至る背景がほとんどない。スクールバスや電車、自動車や電動自転車に乗った子供が通学し、徒歩で学校に通っていたとしても、アフリカのように2-3時間かけて通うということはまずない。

また、アフリカの子供たちが通学で大量のベアフットウォーク / ランニングをしていなかったとしても、家に帰ってからやることが、外で遊ぶ、もしくは家の手伝いで井戸の水を汲みにいく、肉体労働をするいった運動を伴うものであれば、それは自動的に体に機能性を高めることに直結しているといえる。

さて、この厚底時代において、大量のベアフットウォーク / ランニングの積み重ねはどれだけ重視されているだろうか。

クッション性のあるシューズを多くはいている人が、例えばナイキフリーを履いて走ってみたり、裸足でスピードを出して走ってみると、ふくらはぎが張ってしまうのは、足のクッション性が低いこと(体の機能性が高くない)の証ではないだろうか。

従って、厚底時代にアフリカ人のようなしなやかな走りを、特定のシューズを履くことによって似たような動きにすることはできても、それ以外のシューズを履いている時は、まるで違うような貧弱な走り方になってしまう可能性がある。

それが今、にわかにトラックやロードで起こっていることだ(というか、もう厚底以外のシューズに戻れない人が多い...)。

だから、ベアフットウォーク / ランニングは決して侮れないことだと思っていて、もし子供にランニングをさせたいと思っていたら、子供に対しての1足目は体の機能性を高めるような薄いシューズが好ましいと考える(というか子供用にガチガチのクッション性を謳ったものは少ない)。

大人でもベアフットウォーク / ランニングは需要であるが、いざミニマリストシューズ(低ドロップで軽量のシューズ)を履こうとしたら、体重の重い人は特に気をつけないと故障に繋がるので、一概に全員に対してベアフットウォーク / ランニングを推奨するものではないが、ランニングの基本はベアフットウォーク / ランニングにあると私は考えている。

東アフリカ人の走りを見て、それがきれいだと思う人は一体何人いるだろうか?


【ミニマリストシューズ】
基礎:子供の時から裸足もしくは薄底で体の機能性を高めたい
基礎:問題なくジョグができるなら、次第に薄底のシューズで体の機能性を高めていきたい
応用:裸足で流しをしたり、芝生でジョグをしたりする
応用:リカバリージョグではないジョグの日に、あえてミニマリストシューズを低頻度でもいいので履いてみる(トレーニング刺激を分散する)
など


集団練習 / ペーサー / 個人練習

長距離走における基礎練習であるジョグについては上に述べたが、ジョグは個人練習であり、個人練習の質の高さが集団練習やレースのパフォーマンス向上に繋がると私は考えている。

この順番が逆になってしまっていたら元も子もない。つまり、集団練習を重視するがあまりに、ジョグなどの基礎が疎かになってしまっていないか、である。

私がランニングクラブの練習会を見ていて思うことは、ジョグの練習会があまりない、ということだ。つまり、基礎を教える練習会がそこまで多くないのに、応用から始まってしまってはいいとこ取りに過ぎないということだ。一定期間、ジョグを継続的にモニタリングしようとしたら、毎日会うような関係性でなければ、それは個人レッスンの領域であると思う。

しかし、そういった基礎を抜かしてランニングクラブに入会してくるような人がいれば、私はシューズや練習内容に関してもまず基礎から教えなければならないと思っている。

ランニングクラブでは、集団練習や練習パートナーが見つかることによってモチベーションを高めたりするのに役立つが、一方では個人練習のクオリティが保てていない人にとっては、それが逆効果になることがあると思うことがある。

強い選手とは自分の感覚で走ることを熟知している。

従って、周りのペースがいかなるものであっても動じず、自分が最大限発揮できる動きやパフォーマンスの再現性が高い。それとは逆に、ペーサーや集団練習ありき(前提)の練習(+厚底シューズなど)に慣れてしまうと、それらがなくなってしまった時に、まるで別人のようにパフォーマンスが低下してしまう可能性がある。

これは、本来補助であるはずのペーサーや集団練習を重視するがあまりに、基礎を失ってしまった人の末路かのように思うことがある(中距離競技におけるペーサーの役割は長距離とは少し違う。中距離はまだ幾分、鍛錬機や試合きはペーサーに依存してもよい)。

どんなランナーでも収穫逓減の法則に従えば、基礎を抜かして集団練習をし続ければ速くなることはできるが、その先には低迷することが目に見えているので、長期的なプログラムを組むうえで、基礎のスキルを持っていることが次のステージに進む時に役立つ。

とあるランニングクラブでは、練習会でペーサーを使わない方針のクラブがあったが、それには私も賛成である。ペーサーとはあくまで補助であり、長距離走の基本は、走動作における自分の感覚を研ぎ澄ませていくことにあると私は思うし、従って、長距離種目においては全体の練習のほとんどが個人練習である方が望ましいと考えている。


【個人練習 / 集団練習 / ペーサー】
基礎:個人練習で自分の感覚を研ぎ澄ませていくことにフォーカスする(それはタイムを上げていくことではない)。ジョグ、ロングラン、テンポラン、ファルトレクといった一般的練習
応用:自分1人で到達できそうにない強度やボリュームをとる高負荷練習などであればペーサーや集団練習の借りる


フィジカル練習はあくまで補助的なもの

長距離走や中距離走は、特定のレースペースをレースの時間だけ維持するという性質のスポーツであるが、そのトレーニングが千差万別である。

なかでも、ヒルトレーニングや、上り坂 / 下り坂を使ったようなワークアウトはトレーニングにエフェクトをかけるようなもので、ジョグのようにほぼ全員が恩恵を受けれる練習だと思うが、これらは走動作や、それに近い動きで行うワークアウト / 技術練習である。

どんなに、ウェイトトレーニングやコアトレが重視されようとも、そこで鍛えたものが実際の走りで上手く使えていなかったらあまり意味がない。かといって、ウェイトトレーニングで鍛えた部分を体が上手く使えるようになるためには最低3-6ヶ月ぐらいはかかると思っている。

だから、基本的にはランニングの練習がトレーニングの比重の大半を占めるのであるが、結局のところバランスが重要だというありきたりな結論に至る。

ただ、坂を使ったような技術練習やワークアウトは工夫さえすればほぼ誰でも取り組めるし、山岳地方に住めば、ジョグでも起伏の多いところや不整地をたくさん走ることができる。

こういったことの積み重ねが数年間積み上げられていくことによって、強力な基礎を積み上げることができる。ケニアの長距離選手は5000m13分台に至るまでにおそらくウェイトトレーニングは1度もしたことがないだろう。彼らは幼少期の大量のベアフットウォーク / ランニングの積み重ねに加えて、トレーニングを始めた時点で起伏の多い土地、不整地での練習環境がある。

高い技術レベルはそういった土地での反復練習にあり、そういった技術レベル、基礎体力、筋持久力といったパラメーターの差を埋めるものがコアトレやウェイトトレーニングであると考えている。

私は、彼らのようにアップダウンの激しい山の不整地ジョグやロングランやファルトレクといった一般的練習を積み重ねれば、自ずと効率的なランニングフォームに近づくと考えているが、日本ではそういった環境が高地の合宿地にしかなかったりするので、なかなか日常的ではないので、それを補う何かが必要であるというわけだ(私はウェイトトレーニングをやっているが、アップダウンの多い土地に住んでいれば、もうちょっとウェイトの頻度を少なくしていると思う。その分坂を使ったワークアウトの比重を多くする)。


【フィジカル練習】
基礎:特異性の原理を考慮すると、ランニングで使う筋肉はランニング、またはそれに近い動きで鍛えていく
基礎:コアトレなど自重のワークアウト、チューブを使ったトレーニングは補助的なもので、一部の筋肉を補正したり強化したりするものである
応用:坂などを上手く利用、重いシューズを履いたりクロカン、不整地で走るなどの工夫が重要(レジスタンストレーニングの観点から)
応用:ウェイトトレーニングは技術練習であり、適切に指導できる指導者がいることが望ましい。また、継続的なウェイトトレーニングは女子選手の方が恩恵を受ける


サプリメントと食事とリカバリー

サプリメントもあくまで補助的なものである。

サプリメントさえとっていれば、食事はジャンクフードやその他コンビニ食やお菓子などでいいや、となれば、元も子もない。これも基礎は栄養バランスの取れた食事を摂ることが基本である。

食事や休養といったリカバリーは、トレーニングと一緒になって意味をなすものであるが、それを理解していないと良いワークアウトをしても、良い効果を得ることができない可能性がある。

どういうトレーニングをしているか?という話題はSNSで盛り上がりやすいが、一方では、ランナーがどんなリカバリーをしているか、どんな食事をしているのか?ということがそこまで盛り上がらないのは、これらが軽視されている証なのではないだろうか。

これらのリカバリーはトレーニングの内容と同等に重要であり、トレーニングとリカバリーがセットになって質の良いトレーニングであるといえる。

プロ選手であれば、スポンサーとの関係性でサプリメントの宣伝をすることはあっても、基本的には食事から取る栄養素を主にしているはずだ。

選手自身も栄養学や料理  / 調理に興味を持つことは非常に大切であるが、大学や実業団では管理栄養士を雇うことが多いので、選手自身が毎日調理をするということはあまりないが、欧米では意外と中長距離のプロ選手が自分で調理しているケースが多いことに気づく。

それは彼らが、食事 / 調理 / 栄養に興味を持っていることの現れだと思うし、人に与えてもらうのではなく、自分から進んで学んでいることの証だと感じる。


【食事 / 調理】
基礎:栄養バランスのとれた食事を日常的にとって、サプリメントはあくまで補助的なものにとどめる / 食事やリカバリーはトレーニングと同等に重要である
応用:料理や調理、食材(油、肉、野菜...etc)に興味を持ってみよう


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