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競技選手はスーパーシューズについて"正直に話したほうがいい"その②:ポール・ポロック🇮🇪(ナイキ)

(写真:Instagram Paul Pollock

昨日から始まったこのテーマの記事をシリーズとして毎日書いていく。

2回目はNNランニングチーム所属のポール・ポロック(アイルランド)について。

2019年に不調に陥ったはずが...マラソンでまさかの大幅自己新

2016年リオ五輪男子マラソン32位の実績を持つポロックは、現在34歳の五輪選手で、職業は救急医。父親としての顔もあり、マラソン練習も含めて忙しい日々を送っている。

2012年にアイルランドのダブリンで初マラソンを経験し、そこからアイルランドを代表する選手として世界ハーフマラソン選手権やリオ五輪といった大会で20回程度のアイルランド代表歴を持つ選手である。

彼はエリウド・キプチョゲケネニサ・ベケレなどのチームメイトとともに「NNランニングチーム」の初代メンバーに選ばれた3人のヨーロッパ人のうちの1人である。

そんな彼が、2012-2019年の8年間ものマラソンのキャリアで経験してきた出来事に印象深いものがある。

ポロックはマラソンでこれまでに2012年、2013年、2016年の2時間16分台、2015年、2017年に2時間15分台のシーズン記録をマーク。NNランニングチーム加入前の2017年2月には別大マラソンに出場し18位に入っている。

そこでのレース後には、三菱重工の岩田勇治選手とのツーショットを撮影するなど、このように日本のレースにも出場していた生粋のマラソン選手である。

そんな彼はこれまでの薄底シューズで何年間もの間、トレーニングを行いながら2時間16分台と2時間15分台の間を行き来していたが、2019年12月のバレンシアマラソンで33歳にして2:10:25の北アイルランド新記録をマークし、それまでの自己記録を一気に5分ほど縮めた。

アイルランドの記者、キャタル・デニヒーの記事によれば、ポロックは2019年6月に父親になり、救急医の仕事も含めて多忙な日々を送っており、睡眠時間の確保が難しかったという。

午前2時や3時に走りに行くことさえもあり「走れるときに走ればいい」と思っていたら、バレンシアマラソンへの4ヶ月の練習過程で月平均280kmの少ない練習量。

そして、バレンシアマラソン4週間前のパークラン5kmでは不調がたたり17:20もかかってしまい、彼とコーチは「マラソン2:15切りは不可能」と真剣に考えていたという。

それもそうだ。

彼らにはこれまで8年間ものマラソンの競技生活の中で、練習ができていないことで、マラソンのレースで「ごまかしがレースできくわけがない」と肌で感じていたからだろう。それまでの8年間の練習過程の中で、コーチもポロックもそういうことを多く学んできている。

しかし、ポロックはバレンシアマラソンのレース2日前にヴェイパーフライネクスト%を初めて購入。「レースでは、2:15台を出すのは不可能でも、ある程度の速いペースで流れに乗って、いけるところまでいってそこで途中棄権」というプランを描いてレースに臨んだ。

"2:11:30ペースで中間地点まで走ったが、そのとき彼はいつものマラソンの30km以降の壁がやってくると感じていた。しかし、実際、彼はそこからスピードを上げ始めていた"  by Cathal Dennehy

「マラソンでこんなことはめったにない」

ポロックはマラソン開始後8年目で初めての体験だったという。

そして2:10:25の大幅自己新を記録した。

実際に、それまでに彼が履いていなかった新しい革新的なシューズ(ヴェイパーフライネクスト%)をレースの2日前に買ったという事実があっても、それをレース後に、レースからしばらく時が経っても、ほとんどの選手はメディアや記者にそういったことはほとんど話さないだろう。

彼がそういったこと、つまり道具の準備の面も含めて、このレースまでの練習過程の経緯を正直に話したことは称賛に値するのではないだろうか。


救急医でもあり父親でもありアイルランドを代表するマラソン選手でもある

救急医療の現場で働く医者として、そして父親として、また指導者としての顔も持つポロックのマラソン練習が、多くの市民ランナーと同じように時間の制約がある中でのものだということは容易に想像できる。

それでも、彼はさらなる高みを目指して次のレースに向かおうとしている。4月11日にドイツのハンブルクで行われるNNミッションマラソンで、他のNNランニングチームのチームメイトと共に中間地点までペーサーを務める予定である。

彼は2019年12月に東京五輪の参加標準をクリアしているので、5月にハーフで自己新を狙い、今年の最大目標は東京五輪での快走というところだろう。

彼はまた、アイルランドでDream Run Dublinとうプロジェクトに参画し、ダブリンマラソンでサブスリーを目指す10名を指導するコーチとしての顔も持っている。

2019年のバレンシアでのヴェイパーフライネクスト%での5分の大幅自己新の経験を踏まえて、最近の厚底カーボンシューズなどの「スーパーシューズ」についてポロックはどう思っているのだろうか。

今ではすっかりシューズが流通しているのでそれを履かない手段はないだろう。現段階では、エリートランナーではそれを履かないと少なくとも精神的には不利になるとされている。このシューズが発売されたとき、私は普段履いているフラットシューズでレースに出たが、他の人たちはヴェイパーフライ4%を履いていた。 出典先:It’s one of my biggest regrets in running': Olympic pain fuelling Paul Pollock's Tokyo dream

ポロックは普段の練習では極力スーパーシューズを履かず、レース当日のために取っておきたいと考えている。

レースでは精神的に“このスーパーシューズを履けばうまく走れる”と、頭がそう思っている。次は4月11日にハンブルグで開催されるNNミッションマラソンで、再びこのシューズを履く予定だ。出典先:It’s one of my biggest regrets in running': Olympic pain fuelling Paul Pollock's Tokyo dream

ランニングの世界において“スーパーシューズ”という呼称が使用され始めたのは、ごく最近になってからかもしれない。

「スーパーシューズは普段はあまり履かずにレースにとっておく」

それがポール・ポロックという男の今の“こだわり”なのだ。


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