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アディダスの新厚底シューズ【アディゼロアディオスプロ】のポテンシャルその①:プラハハーフで女子65:34(世界新) 男子58:37(世界歴代5位)の好記録をマーク

2017年5月にナイキのBreaking2でマラソン2時間切りへの挑戦が行われていたが、このレースでエリウド・キプチョゲが履いていたのはヴェイパーフライエリートであり、同じく2時間切りへの挑戦である2020年10月のINEOS 1:59では彼はアルファフライを履いていた。

その後、ナイキはエリートランニングの世界を圧倒的な話題性と製品力で凌駕し、その先頭に立っていた。

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ちょうど20年前の夏。

私は中学生としての一夏を野球少年として過ごしていたが、それでもシドニー五輪の高橋尚子の金メダルは鮮烈に記憶に残っている。また、その4年後には野口みずきが同じく五輪で金メダルを獲得した。

最近、エリートランニングの世界で度々厚底シューズが話題になる度に

「走っているのは選手だ」

という声が聞こえるが、選手が自分の夢と練習の成果を託すのは、最終的に自分がレースで履くシューズであったりする。

高橋尚子も野口みずきも同じようなシューズ(カスタムのソーティジャパン)を履いていたことを考えると、“走っているのは選手”とはいえ、もはやシューズは自分の体の一部のような存在であり、最高の選手と最高の靴との最高の組み合わせがそれぞれの時代にあるのだ。

それが、時代の変化によって近年は薄底から厚底に変化を遂げていったが、今年はエリートランニングシューズ開発戦国時代。9月になって突然“アディゼロアディオスプロ”という大砲が狼煙を上げた。

アディダスは2000年以降にハイレ・ゲブレセラシエ、パトリック・マカウ、ウィルソン・キプサング、デニス・キメット、メアリー・ケイタニーというそれぞれのマラソン世界記録保持者(ケイタニーは女子単独レースでの世界記録)の足元を支えたが、この3年間はナイキの厚底シューズに後塵を排する状況を抜け出せずにいた。

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(出典:RUN CZECH

しかし、2020年9月5日、チェコ・プラハのとある公園の周回コースでひっそりと行われたハーフマラソンでエリートランニングの歴史が動いた。

いきなりハーフマラソン女子65:34(世界新) 男子58:37(世界歴代5位)をマーク

2020年9月5日の朝にチェコ・プラハのLetna Parkでアディダス契約のエリート選手のみによるハーフマラソンの“Prague 21.1km”が開催された。

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(出典:RUN CZECH

選手は全員、アディダスの新厚底のアディゼロアディオスプロを着用。かつてのナイキのBreaking2やINEOS 1:59のように、クローズドの空間での周回コースで。

今回のコースは1周1280mの周回コースを16.5周のハーフマラソン公認コース。


【女子レース:朝6時スタート】

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(スタート前にマネージャーのDavor Šavijaから声をかけられる選手たち)

気温は16℃前後。ペレス・ジェプチルチル(ケニア)が※ハーフマラソン女子単独レースの世界最高記録(66:11)を更新する65:34で優勝。

※男子ペーサーの先導を受けない“女子のみ”のレース

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5km 15:16
10km 30:42(15:26)
15km 46:15(15:33)
20km 62:07(15:52)
21.1km 65:34(3:28)

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ジェプチルチルは6kmから女子ペーサーを振り切り独走。 アディオスの新厚底“アディオスプロ”のデビュー戦を女子単独ハーフの世界新記録という最高のタイトル獲得で大きく印象付けた。 

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ペーサーのBrenda Jepletingは6kmでジェプチルチルに振り切られてからレースを完走。初ハーフで67:07の2位。

【女子ハーフ:結果】

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【男子レース:朝8時スタート】

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(全員がアディオスプロを着用 = 全員アディダス契約選手)

気温はスタート時17℃でレースの終盤は21℃まで上昇。

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キビウォット・カンディエ(ケニア)が世界歴代5位の58:37で優勝 。カンディエは今年2月のRAKハーフを58:58で優勝し、今回自己記録を21秒更新。ケニア以外ではハーフ4回目。

5km 13:46
10km 27:39(13:53)
15km 41:34(13:55) 

カンディエは10kmからペーサーを振り切って独走。女子に続いて世界新とはならなかったが、彼にとって海外での4回目のハーフで世界歴代5位の好記録を出したことは評価できる。

【男子ハーフ:結果】

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序盤からハイペースで縦長になったのと、気温が後半上昇したのも影響して(17℃ → 21℃)サブ60は2人のみ。イーブンペースの落ち着いたペース設定であればもっと平均的に好記録が続出していたかもしれない。カンディエは後半11kmは単独走。


シューズのポテンシャルは極めて高い。あとは結果が自然とついてくるだけ。

コロナ禍の新方式:クローズドの周回コースでのロードレース。

Breaking2やINEOS 1:59はペーサーが入れ替わることもあり非公認レースだったが、今回は1周1280mの周回コースを16.5周の公認コース。今後、この方式は10月4日のロンドンマラソンでも取り入れられる(箱根予選会は非公認)。 

(運動生理学界の“キプチョゲ”こと筑波大の藤井先生のリアルコメント)

コロナ禍ともあり、クローズド空間でのロードレースは今後新しいロードレースとしてその地位を築く可能性がある。

コーチの指示が出しやすい / 何回も指示ができる、栄養補給の観点から戦略を立てやすい / 修正しやすい等の理由もあり、特に記録に特化したレースでは採用される可能性が高い(場所の確保というハードルを越えれば)。

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公園での周回コース。好記録を目指して後半粘る選手たちの横で、DNFした選手が公園のベンチで休憩している風景が何とも新しい。あっさりと諦めてしまったら、今度は仲間を応援しているんだろう。

ロンドンマラソンもセントジェームズ公園のクローズド空間とはいえ、激流に耐えられずDNFした選手が応援するシーンがもしかしたらあるかもしれない。

男女ともにマラソン世界記録更新(男子2:01:37、女子2:14:04)への期待が高まる。

この3年間はナイキの契約選手やVF履いた選手がサブテン出しまくったりロードレースを席巻していても、アディダスの契約選手は旧アディオスでよく頑張っていた。 

ここからアディダスの契約選手がどれぐらいの好記録をバンバン出してくるかを想像するともう昔の記録の価値観には全くも戻れないと思う

それはそうだ。この日はベルギーでのブリュッセルでのダイヤモンドリーグ でも男女1時間走でともに世界新記録が樹立された(男子モー・ファラー。女子シファン・ハッサン)。

男子5000mのジョシュア・チェプテゲイ、今日の女子ハーフのジェプチルチルの世界記録更新を含めると、長距離種目だけで今年は4つの世界記録が更新されている。

そんな2020年。

今日のアディダスの契約選手たちの走りを見ていると、旧アディオス(ジャパンブースト)着用の時よりも、明らかに彼らのストライドが伸びているように見えた。

アディダスはもともと、冒頭でも触れたように2000年以降にハイレ・ゲブレセラシエ、パトリック・マカウ、ウィルソン・キプサング、デニス・キメット、メアリー・ケイタニーというそれぞれのマラソン世界記録保持者を抱えている。

しかし、製品力でナイキに遅れをとっていたが、それが今では解消されつつある。陸上長距離のプロエリートランニングにおける契約選手の強さはこの10数年はナイキとアディダスの2強だったが、その勢力図が再び再燃しそうである。

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このシューズのポテンシャルや、製品の詳しいレビューに関しては私もまだ確かめたいことがあるので、2日後ぐらいに改めてnoteに書きます。

お楽しみに。(このシューズでインターバルとハーフとマラソンペースで履いたけどもう1回ペース走を入れてみます)。

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